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シン・仮面ライダーのTenKasSのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
5.0
自分は仮面ライダーを全く観たことがないし、庵野秀明作品のファンでもないけれど、これは凄くチューニングが合った。何にも期待せずに時間潰しに観たからかもしれないけど本当に良かった。
庵野氏が日本のメジャースタジオのメジャーコンテンツを独自解釈で撮るに至って、題材を自身の鬱経験とその寛解を重ねたものとしていることが今までで一番意味をなしているように思った。
アニメやCG主体の作品ではどこか上滑りしていた、身体性や他者との身体的な繋がりへ希望を見出す直接的なセリフ群やテーマが、優れた俳優たちに支えられて地に足をつけているように思えた。それに基本的なことだけど、身体の所作をカメラがちゃんと捉えているのが良かったと思う。(ゆっくりと両腕を回す仮面ライダーや、森山未來のゆったりとした変な動き、ゆっくりと腰を落としながら刀を構える西野七瀬など)身体性の強調という意味でゴア描写は意味を成している。

仮面ライダーって本当に全く知らないのだけど、身体の変容を描いているのが凄く好きだと感じた。(俺はクローネンバーグの『ザ・フライ』みたいなハエオーグになりたい(いるの?))
それを作った博士の役が鉄男の塚本晋也というのもコンテクストがあって面白かった。身体の変容が不可逆的でなくて人間の姿に一応戻れるというのも良かった。人間は完全には変わりきれないという含意があるように思った。
登場人物みんなが何かしらの絶望を抱えていて、それを覆い隠すようにマスクを被るという精神分析的にありがちな表象。
しかしそのマスクやヘルメットが浜辺美波から池松壮亮へ、池松壮亮から浜辺美波へ…と言った具合に受け渡される関係が良い。弱みを互いに守り合うのが信頼。
マスクの下で押し殺した感情がマスクを外すことで決壊するのを柄本佑と池松壮亮が違う形で表現しているのも良かった。泣いて良いんだよという感じ。西野七瀬も泣いても良かった。
弱みや絶望を覆い隠すためのマスクが、他者の本心を知るための装置、他者と共に生きるための装置に最後には変わるのも良かった。人生は継ぎ足されながら変わりゆくものなので、この妙にスッキリしたラストが悪くないと思えた。
あと本当に特撮を観ないので登場人物がピョーンと飛んで次の場面に全く違う場所にいるのが凄く原初的な映画的なウソに見えて新鮮で良かった。コンティニュイティなんか知るかっていう感じ。

正直言っていることはエヴリシング・エブリウェア・オールアットワンスの"Be kind each other"的なのと大体同じだと思うんだけど、こっちの方が断然好きだった。何故かは分からない。こっちの方が真面目に馬鹿な映画だと思うから誠実に感じたのかも知れない。
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