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シン・仮面ライダーのsanbonのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.6
「本郷猛」の裏設定が「チワワオーグ」だったって本当?(ウソ)

この「シン」シリーズを振り返ると「シン・ゴジラ」が突出して異常だった事がよく分かる。

そう、あくまでシン・ゴジラがよく"出来過ぎていた"だけなのである。

だから「庵野秀明」とは本来こんなものなのだ。

自分に与えられた裁量がデカくなればなるほど、コアでニッチでカルトな世界観を突き詰めて表現したくて堪らなくなるのがこの男。

今作の配給が「東宝」ではなく「東映」で、尚且つ庵野自らの持ち込みで企画されている時点で、この男の独壇場であるのは明らかだ。

それでも、他のシリーズは謎の散りばめ方やマニアックなネタの仕込みが上手い分、結局最後は裏切られてしまうと分かっていても、ついつい最後まで信じて着いて行ってしまう訴求力があった。

ところが、今作はめちゃくちゃ原作リスペクトだった「シン・ウルトラマン」よりも大分オリジナル脚本かと思えば、ゴジラに比べると新たなものを創り出そうという意気込みや独創性には欠けている印象で、端的に言うとめちゃくちゃどっちつかずな内容となっていた。

これは、好き過ぎて手を加えるのが畏れ多いウルトラマンと、それほど好いてはいないからこその自己解釈モリモリで魔改造させられたゴジラの、丁度中間に位置する「仮面ライダー」だからこその中途半端さ加減だったに違いない。

その上で、特撮大好きっ子のくせに今作のアクションシーンは基本CG頼りとなっており、そのCGのクオリティも低予算を浮き彫りにしてしまうものだったのはかなり残念。

それなのに、序盤のカーチェイスのシーンなどはあからさまなミニチュア撮影だったり、撮影技法に関してもどっちつかずで非常に中途半端。

しかも、カメラワークがやたらと切り替わりまくり、引きだ寄りだとぐわんぐわん視点が動きまくる中でのアクションがとにかく見難く、画質や明度もお世辞にも良いと言えるものではなかった。

それこそシン・ゴジラ以外のリメイクは、当時のオリジナル版をオマージュして、演出も踏襲してというやり方にこだわって作られているが、果たしてそれは「円谷英二」や「石ノ森章太郎」へのリスペクトになっているのだろうか?

その当時のスタッフは、決して"子供騙し"をやろうとしてウルトラマンや仮面ライダーを作った訳ではない。

その当時、彼らにとってはこれが"最善"だったのだ。

子供向けコンテンツである事実に変わりはないが、虚構でしかない世界をどう表現しどういう見せ方をすれば、それを現実にあり得るものとして"憧れてくれるか"を必死で試行錯誤した、"当時の最先端"を総動員した技術を「特撮」と呼ぶのではないのだろうか?

そして、それに魅了させられたからこそ庵野秀明という一人のクリエイターが誕生するに至り、今正に往年のヒーローを現代に甦らせるプロジェクトを手掛けている訳で、それならば本来の作品への敬意の評し方は"当時の再現ではいけない"筈なのだ。

何故なら、そこに無いものをあるかの如く見せるのが特撮の本質であって、今作やシンマンのようにその表現法として今敢えて取り入れなくてもいい、アナログ感のある挙動や画質、古臭いノリや往年のテクニックを好んで使うような態度は、当時の技術者を冒涜しているとの見立ても出来てしまうからだ。

だって、今の時代にまだ円谷が生きていたとして、いまだに針金で人形吊るして空を飛んでるように見せかける演出を施すと思いますか?

絶対にしないでしょ?

それこそ、特撮というジャンルの最適解は決して当時の技術ではない訳で、本来ならば今聞いても驚くべきアイディアに彩られた発想力と、それを駆使して映像として表現してやるという技術者としてのプライド、そこにこそ継承するべき魂があったはずなのだ。

そんな中、シンマンでやった人形演出しかり、今作でやった当時のロケ地での当時と同じアングル、カット割の再現しかりは、それを見せられても結局ただ懐古心をくすぐられるだけで、今の世代に向けた、少年期の庵野が受け取ったであろうイズムを今作が布教する事は極めて難しいのではないだろうか。

だからこそ、分かる人だけ分かればいいとか、自分は好きだけどオススメはしないって評価が多い時点で、高い評価はどう転んでも出来ないのよ。

こんなものを見させられては、キャッチコピーに「変わらないモノ。そして、変えたくないモノ。」とあるが、ぶっちゃけそこじゃないだろうとツッコミを入れざるを得なくなってしまう。

内容も、極論「悪い組織があるからそれを潰す」というなんの捻りも効いていない筋書きでしかなく、これといった惹きつける謎も無いシンプル過ぎる展開に「ハビタット世界」とかいう「人類補完計画」の二番煎じを最終的な策謀として描くという、あまりにも中身の薄いストーリーラインと言わざるを得ず、更には切った貼ったのダイジェスト版のような雑な構成も、ウルトラマンの時はやりたいエピソードが多過ぎるあまり、原作になぞらえた演出を詰め込み過ぎたが故の愛を感じたのだが、今作に至っては脚本がオリジナル寄りだった分そういったリスペクトも特別感じられず、本当にただつぎはぎした荒い編集のようにしか感じなかった。

そして、それらが全て悪い相乗効果を生み、全体的に絵面がシュール&チープに成り果ててしまっており、これじゃあ駄目だよと言うのが率直な感想だ。

というか庵野は、シュール&チープこそが特撮の良さであり醍醐味だと感じている節があるとさえ感じる。

だからこそ、仮面ライダーのアップを写したメインビジュアルにも、敢えてマスク越しに目を透けさせているのかもしれない。

それなら、一般的な趣向とは合わないのは当然であり、このクオリティに至る意味も理解できる。

まあ、そんな中にも「サイクロン号」が空まで飛んだり「ライダーキック」を放つ際に、背中に羽根のような紋様が浮かんだりする新解釈など、カッコいいブラッシュアップも随所に散りばめられはしていたが、それでもまだ足りない。

僕は、特撮の中で仮面ライダーが一番好きだし、オタク目線で見れば擁護出来る箇所ももちろんありはしたが、純粋に一本の映画として見たら全然駄目だった。

多くの人に向けた作品作りを放棄し過ぎなのである。

あまつさえ、大型シネコンでかかる大作映画として世に放たれ、箱数だって一番多く貰っている作品なのだ。

収益を上げる為にも、コンテンツとしての活性化を促す為にも、間口の広い入り口の役目を担って貰わなくては本来困るのだ。

かと言って、オリジナルをなぞる事にこだわり抜いたシンマンよりは、今作は原作破壊をある程度是としている為、原作を愛してやまない層にも寄り添えていないように思う。

また、原作のままだと同じ出自である筈のライダーと怪人のルックスがあまりにかけ離れている事から、今作では怪人側を「オーグ」と呼び、ライダーと同じようなマスクタイプのデザインにしてみたり「ショッカー」という組織の在り方にも現代に通用するアップデートを施している点は意図として理解出来るのだが、当の仮面ライダーだけがデザイン上時代に取り残されているように見える反面、オーグのデザインに求めていたものはスタイリッシュさかと言えばそうでもない訳で、オリジナルに忠実なデザインと今風なテコ入れも結局どっちつかずで正直言ってちぐはぐで、ここも本当に中途半端だ。

あと、ウルトラマンのレビューの際に、今作にも「竹野内豊」が出てくれば面白いねー、なんて冗談めかして言いはしたが、実際出てくるとなるとぶっちゃけ興醒めしてしまった。

しかも「斎藤工」までセットで出てきたから尚更だ。

前作までは「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」に繋がる重要人物かと思っていたからこその発言だったが、それが単なるお遊び要素で、尚且つその配役である事に特別な意味が無い事が今作で確定してしまったから、それも含めて正直ガッカリである。(というか、ユニバース作品が作られるかどうかも定かではないが)

最後に、今作を「4DX2D」では決して観ない方がいい。

僕は17日の最速上映で時間的な関係で致し方なく4DXをセレクトしたのだが、冒頭のスプラッターシーンに合わせて水が大量に吹き付けてくる演出で視界を遮られまくり、まじで気分が萎えぽよピーナッツになってしまった。
(ここで説明しよう!萎えぽよピーナッツとは、萎えてやる気が削がれたという意味のギャル語である!)
(僕もついさっき知ったばかりなのである!!)

それと東映!お前「BLACK SUN」といい今作といい、せっかく仮面ライダーを一般層に普及でき得るチャンスを二度も不意にするとかマジで…もう…あんた馬鹿ぁ⁉︎
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