亘

ひまわりの亘のレビュー・感想・評価

ひまわり(1970年製作の映画)
3.9
【引き裂かれた2人】
イタリア・ナポリ。偶然出会ったアントニオとジョバンナは恋に落ち、そのまま勢いで結婚する。仲良く新婚旅行をしていた2人だが、第2次世界大戦下でアントニオはロシア戦線に徴兵されてしまう。戦後、イタリア兵が帰還する中アントニオは帰らない。夫の生存を信じるジョバンナは1人ロシアへと向かう。

戦争によって引き裂かれた夫婦の悲しい数奇な運命を描いた作品。ストーリーも良いけれども、ヘンリー・マンシーニ作曲のテーマ曲が感傷的で美しくて印象的。

本作は、ジョヴァンナが役所の担当者を問い詰めるシーンから始まる。彼女は夫の生存を信じて窓口担当者に安否を問い詰めているのだ。そしてそこからジョヴァンナとアントニオが出会った頃の回想と現在が交互に映される。

[楽しかった日々]
2人の出会いは偶然だった。北部出身のアントニオが南部ナポリに旅行中にジョヴァンナに出会う。2人は恋に落ち、そこから勢いのままに結婚し新婚旅行を楽しんでいた。しかしアントニオは残りの日数を気にしていた。新婚旅行が終われば徴兵されてジョヴァンナと離れてしまう。だから2人は、アントニオの精神障害を偽装し、精神病院で面会することを企てる。しかし脱走未遂を起こしてロシア送りとなってしまう。

序盤は2人の愛の強さを感じるシーンの連続。出会いから新婚旅行のシーンは、まさに互いに夢中で何をしていても楽しいという雰囲気。本作の中で2人がイタリアで暮らしていたシーンはこの序盤しかないし、さらには精神病院送りになってまで会おうとする愛の強さを感じる。なぜジョヴァンナがそこまでしてアントニオを探そうとするのか、なぜ終盤にすごくセンチメンタルになるのか分からせるためにも、重要なシーンだろうと思う。

[ロシア]
イタリア兵帰還の日、ジョヴァンナは駅にアントニオを探しに行くが見つからない。アントニオを知っているという男に出会うが、彼は寒さの中で仕方なくアントニオを雪原に放置したと語る。ジョヴァンナは見殺しにした理由を問い詰めるけど、続く雪原のシーンでもわかるように過酷すぎてそうせざるを得なかったのだ。そしてジョヴァンナはソ連行きを決意する。

ソ連で、ジョヴァンナは地道に聞き込みなどをして探していく。タイトル、ジャケットのひまわり畑は、現在のウクライナにあるもの。戦場だった地に広がるひまわり畑は美しく明るいけれども、かつての過酷な戦闘やジョヴァンナの辛い心境とのその対比が悲しい。彼女はサッカースタジアムや工場出口などあらゆるところで夫を探すが見つからない。そんな時に彼女は工場労働者のイタリア人男性に出会う。ジョヴァンナの問いかけに対して男はイタリア人であることをなかなか認めたがらない。男はかつて敵兵だったためにイタリア人であることを隠してロシア人として生きているのだ。ジョヴァンナはアントニオが異国で暮らし続けていることに希望を見出す。

遂に彼女はアントニオの住まいを見つける。しかし彼はロシア人女性マーシャと結婚していて娘もいた。ジョヴァンナにとっては受け入れがたい事実。マーシャは雪原で凍死寸前のアントニオを救助し介抱したのだ。彼は記憶を失いジョヴァンナを忘れて自分を助けてくれた恩人のマーシャと結婚した。とはいえ彼はジョヴァンナを一目見て記憶をよみがえらせる。

ジョヴァンナの奮闘とそれに反して残酷な真実が明らかになる場面。アントニオの運命は、彼がどうすることもできなかったとはいえ、ジョヴァンナの悲しみを強く感じる。

[すれ違い]
ジョヴァンナが悲しみに暮れる一方、ジョヴァンナの記憶がよみがえってしまったことで、アントニオも苦しみ始める。都会に引っ越してもジョヴァンナのことを思い出し心ここにあらずといった感じであり、その苦しみによりマーシャもまた悩み始める。そしてついにアントニオはジョヴァンナに会いにイタリアへ向かうことを決意する。しかしジョヴァンナもまたほかの男と結婚していた。再会するも背後からは赤ちゃんの泣き声がして現実に引き戻される。もとには戻れない2人の悲しさも感じるが、何よりその赤ちゃんの名前アントニオにジョヴァンナの振り切れない思いを感じる。ラストシーンの別れはきっと永遠の別れなのだろう、駅に取り残されるジョヴァンナの涙が印象的だった。

2人はタイミングが合わずにすれ違ってしまった。ジョヴァンナ自身も元夫のアントニオをあきらめていたのだろうが息子にアントニオとつけるように心の奥にはとどめていた。だからこそアントニオの帰還はうれしくもあり戸惑った。戦争さえなければ2人は何事もなく幸せに暮らしていたのに、戦争のせいで心にとっかかりを感じながら生き続けるのだ。エンディングで再度流れるテーマ曲が感傷を高めて余韻が残る作品だった。

印象に残ったシーン:駅でアントニオがジョヴァンナを思い出すシーン。アントニオとジョヴァンナがイタリアで再会するシーン。
亘