空海花

親愛なる君への空海花のレビュー・感想・評価

親愛なる君へ(2020年製作の映画)
3.7
チェン・ヨウジエ監督の台湾アカデミー賞(金馬奨)三部門(最優秀主演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀オリジナル音楽賞)受賞作。

ある老婦人シウユー(チェン・シューファン)とその孫ヨウユー(バイ・ルンイン)、間借り人ジエンイー(モー・ズーイー)の血の繋がりを超えた家族の絆を描く。
監督作は他の作品は観ていないが、
これまでも人と人との繋がりやアイデンティティーを描いてきたとのことで
ヴェネチア国際映画祭で評価されている。
感受性過多状態で予告編を観たため、
予告編で泣いて変な人になってしまった記憶(笑)

ジエンイーがただの間借り人なのに、
そのおばあちゃんと孫の面倒を見ているのは、二人が今は亡き同性パートナーの家族だから。
そして彼はこの暮らしが自分の人生において愛する人が生き続ける唯一の方法だと思っているから。
シウユーは元々糖尿病を患っていたが、ある日急死してしまうことで、
その暮らしに亀裂が入ってしまう。
司法解剖の結果、彼女の死因は持病が原因ではなかった─

時系列順ではなく回想シーンが追加されていき、ミステリー調に謎が明かされていく構成。
殺人の疑惑はジエンイーに向けられ
捜査によって数々の証拠も見つかるなか
彼は罪を認めてしまう。
事件については想像通りというのが否めないが
一つ明かされる度に、彼の深い愛情もまた一つと明かされていく。

味方は誰もいない。
疑いから偏見が噴出する。
予告編にあるシーン
女性警察官の取り調べにジエンイーが答える
「もし僕が女性だったら、夫が亡くなっても家族の世話を続けることに、同じ質問をしますか?」
冷静で説得力のある反論である。
だが、彼だって愛する人を喪って
常に平静でいられた訳もない。

この三人の本当の思いとは?
それは映画の中で確かめてほしい。


以下ネタバレ含む感想⚠️


パートナーの死後、
ジエンイーには出会い系で出会ったセフレのような男がいた。
悲しみと寂しさを埋めるような
慟哭のような性行為。
相手の男性も泣いてしまうような。
悪い人ではなかったのだけれど
彼には弱味があったから…
(直接の描写はないが、これがR18指定の理由だろう)

観客は話が進むごとに怒りの矛先が同じ方へ向くだろう。
シウユーがヨウユーの叔父に「戻ってくることはないんだね」と言った時に、
彼女はもう決めていたはず。

ならば、ジエンイーの決心には異を唱えたくなる。
叔父に引き取られるよりも、二人は一緒に暮らしてほしい。
そのためには真実を明かすべきだと。
(でも、違法に薬物を買った罪は残るのか。それはどれくらいの罪なのか)

亡きパートナーとの出会いは山がきっかけというのはうっすら示唆されていたが
ジエンイーはピアノ教師で山が趣味(しかも本格的)というのは趣味が高じすぎかなと細かいが少し気になった。
優し過ぎるし完璧すぎというか。
泣かせ要素も盛り込み過ぎかなと。
クライマックスが山でのシーンになることに何かついていけないところが少しあって。
そして過剰摂取、あやしい民間療法はこわいなと…これがメッセージなのか、ケアの大変さを描いているのか、要素の一つなのかは曖昧さが残った。

とはいえ最後のヨウユーの歌声にはやられてしまう。
それまでわりと小声が多かったのに
ハッキリとしたきれいな歌声。
しかも続き作っちゃうなんて天才か。
そしてそのままエンドロールへ─

これならヨウユーは心配ないね。
自分で選べる時がくる。
ヨウユーが唄うように、ジエンイーもまた。

最後に、2019年台湾が、アジアで初めて同性婚を認める法案を可決したとことが示される。これはそれ以前の話。
原題は親愛的房客。“房客”は借家人やテナントという意。
“親愛なる君”と呼ぶのはパートナーではなく
ヨウユーでありシウユーでもあるかな。


2021レビュー#167
2021鑑賞No.383/劇場鑑賞#67


これももちろん駆け込み鑑賞😝
この前にも2本映画館で観てたの忘れて順番が狂っちゃった💦まぁいっか😇
空海花

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