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べイビーわるきゅーれのOtoのレビュー・感想・評価

べイビーわるきゅーれ(2021年製作の映画)
3.6
「現代の殺し屋の日常」という面白い企画。タランティーノの映画を代わりにジャームッシュが撮ったら…みたいな印象。評判を聞いて遅ればせながらみた。

ふたりのキャラが魅力的でだんだんクセになる感じがした。短いコントが散在しているような前半だったけど、メイド喫茶で事件が起きてからは二人の内面も徐々に見えてきて応援できるし、社会不適合の悩みは自分と重なる部分もあった。

アクションも魅力的で、さすがスタント出身の役者とだけあって、序盤のコンビニからいきなり引き込まれる。セットなんだろうか?よく貸してくれたな?とか思いながら、日常的なシーンの中で突発的に起こるアクションを楽しめる。ソファへの寝転がり方ひとつ取っても、普段から殺しをしてる人の動きになってる。

ただ気になった部分も多く…

・ユーモアセンスが合わない。香水の件とか面白いと思うし、午後ティー的な卑屈ネタもやりたいことはわかるけど、全体的に「笑ってください」感が出過ぎている。だから長回しすぎてテンポが悪い(業者とのやり取りとか洗濯機の件とか特に)。日常シーンの描写が多いのは企画的に仕方ないとして、ただ笑わせるために存在しているシーンが沢山あって、もっと前後の繋がりを活用して厚みのある物語にできたと思う。監督は漫画やアニメの世界観を目指しているらしいけど、前半は特に脈絡のないコントの羅列みたいに感じた。冒頭も妄想オチにする必要あったのか疑問、彼女なら実現できるのに。

・二人の動機が弱い。生活が保証された中で、単に社会勉強としてバイトをしなくちゃいけないという設定に納得感がない。目立ってはいけないから、しばらく普通に暮らしてくれとかならわかるけど、何をしでかすかわからないやつをいろんなところに派遣するのあまりに危険。『許されざる者』と比較すると明らかだけど、家族のために稼ぐとか、大切な人のための復讐とかでもなく、その場で暴れた奴を突発的に殺してしまうってどうなんだろう。

・実在する人物に見えない。笑えなかったのもこれが大きいけれど、極道ファミリーの描写とか特に浅いと感じて、父と兄が死んだのにそんなコントみたいな怒り方でいいのか?とか、ケチャップで突然キレる前も堪えてるように全く見えない。『まともじゃないのは〜』と比べると分かりやすいけど、今作のバイト中に生クリームでキレるのとかは、ここが見所です!ってバチバチにSEと決めカットで見せてしまっていて、見どころほどさりげなく見せた方が笑えるんだよな〜と惜しく感じた。

・GoProの冷蔵庫など、映像の遊びが唐突。長久さんのように作品を通してやってくれるのであればそれは作家性として楽しめると思うけれど、解像度を落としてまで突然あそこで変な視点を挟むことの意味を感じられない。

とはいえ、オフビートなトーンは山下監督なんかと近い気持ちよさがあるし、自転車が撤去された後のバチッと決まった二人の絵とか、たまにハッとするシーンはあった。
上に挙げたような粗さも、それらをすべてきれいに整えてしまったら、この作品らしい熱量とか失われてしまうのかもしれない。
それに何より、主演の二人がすごく魅力的に映っていた。特に髙石さんはこれからブレイクしそうなキャラの強さ。女子を消費したくないという宣言は達成できているのかは怪しいけれど…(そもそもそのギャップも企画の一部だし、事実メイドとかも描いているし)。

将来的に福田監督の枠を取って変わるような監督になるのかもなぁと思って観ていた。あとメイド役の福島さん良かったけど事実上引退しちゃったみたい。自分にとっての天職を認識するまでの映画と言える。
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