めしいらず

こちらあみ子のめしいらずのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
3.5
良くも悪くも他人の感情を察することができない、と言うよりも一顧だにしない主人公あみ子の日常。他人とは違って世界が見えているかのように不可解な言動を繰り返しては周囲を困惑させている。でも彼女自身はそれに気付いていないのか、そのことを痛痒に感じないのか。一つ事に意識が向くとそれ以外が背景化してしまう。母は母親として存在しているのか、それともほくろとしてか。あみ子と対峙した他人の間に必ず発生する落ち着かない空気。意思疎通が出来ない心地悪さ。母親の流産にまつわるある行動をきっかけに両親からも見放され、元より微妙な均衡だった一家はとうとう瓦解してしまう。しかしあみ子の奇矯な言動は悉く彼女なりの他人との関わり方なのであり、ただそれを社会通念の側から見て一方通行に理解不能の烙印を押し、彼女を異物として排斥しようとしているのだ。集団は本当には個性を重んじたり出来ない。あまりに個性的なあみ子は、彼女と向き合った他人の許容量を否が応でも映してしまう鏡のよう。応答のないトランシーバーに、それでも彼女は「こちらあみ子」と呼びかける。果たしてあみ子自身は幸福なのか不幸なのか。悲劇のようにも喜劇のようにも見える物語。根底には禍々しい人間本来の姿が見え隠れしているような奇妙な怖さがあった。普段は意識しないけれど、言外に意思を通わせられる日本人特有のコミュニケーションの薄気味悪さに目を開かされるよう。面白っ!

2023年鑑賞作品(再鑑賞含む)
342本 作品
映画257
テレビドラマ72
アニメ13

2023年鑑賞映画ベスト20(再鑑賞除く)
1.クラック
2.狼の時刻
3.シン・レッド・ライン
4.ファーザー
5.リズと青い鳥
6.アラビアのロレンス
7.椿三十郎
8.赤ひげ
9.8番目の男
10.逆転のトライアングル
11.アレックス
12.エンター・ザ・ボイド
13.SKIN短編
14.まぼろしの市街戦
15.コーラス
16.イワン雷帝
17.エッシャー視覚の魔術師
18.その男、凶暴につき
19.ボーはおそれている
20.こちらあみ子

2023年鑑賞テレビドラマベスト10(再鑑賞除く)
1.阿修羅のごとく
2.阿修羅のごとくパート2
3.大豆田とわ子と三人の元夫
4.それでも、生きてゆく
5.寺内貫太郎一家
6.太宰治短編小説集
7.最高の離婚
8.雪国
9.黒井戸殺し
10.すいか
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