KANA

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3.8

重いテーマをオゾン流に。

芸術や美食を楽しみ、生きることを愛していた85歳のアンドレ(アンドレ・デュソリエ)。
ある日脳卒中で倒れ、身体が不自由になったことを機に「人生を終わらせたい」と娘エマニュエル(ソフィー・マルソー)に告げる。

アンドレ自身の運命への恨み辛みとか人生における後悔とかエマニュエルたち娘による強い説得とか、そういうのをすごく情緒的に描いてるわけではない。
安楽死・尊厳死というテーマ自体はもちろんとてもデリケートなものだけど、オゾンはそこはサラっと。
むしろ、すでに彼が決意した安楽死への道筋を淡々と描いていた。
人としてそこの尊厳を保つのは当然と言いたいふうに個人的にはとれた。
そしてその先にある、周りの者の応え方の一例を、メッセージというわけでもなくただ表現したかったのかなって。

だから、本作の主役は死にゆく本人ではなく、ソフィー・マルソーだと思う。
幼少期の父との少し冷めた対話の記憶をフラッシュバックさせながら、
父のアーティスティックだけど頑固な性格と対峙しながら、
母(シャーロット・ランプリング)と、父のパートナー(男性)との関係に忖度しながら、
妹と共に対処していく過程の割り切れないモヤモヤ感。

本人があっけらかんと楽しそうにすればするほど空気が重くなる"最後の晩餐"…
もらい泣きしそうになった。

だけど、ラストは心の澱が消えたような不思議な感覚。

ソフィー・マルソーのナチュラルな演技がすごくよかった。(加点ポイント)
彼女そのものも。
低音ヴォイス、無造作ヘアがアンニュイだし、
ブルーのシャツやセーター、クタッと馴染んだプラダのリュックがちょっと少年っぽさもあって好き。
理想的な歳の重ね方。
KANA

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