KANA

ドント・クライ プリティ・ガールズ!のKANAのレビュー・感想・評価

3.8

メーサーロシュ・マールタが手掛けた青春音楽映画。
70年代ハンガリーの閉鎖的な社会に生きる若者たちの日常をビート・ミュージックで彩る。

同じ工場で働く不良青年と婚約中のユリは、ある日皆の憧れのミュージシャンと恋に落ちる。
彼に誘惑されて小旅行に出かけ夢心地の中、怒った婚約者や兄たちが追いかけてくる。
2人の男性の間で揺れ動くユリ…

…なんてことないストーリーだけど、身寄りのない孤児が多かったこと、男性中心社会、社会主義体制など、当時のハンガリーの背景がよくうかがえて興味深かった。
兄が妹に自分の服を洗濯するように命令し、すぐに従うという何気ないシーン一つとっても女性として見ててフラストレーションを感じずにいられない。

でもそんなビターな空気を吹き飛ばすように、音楽を通して若さのパワーが溢れてた。
フォーク、サイケデリックロック、ジャズロック…♪
もはや歌詞がストーリーテラーともいえる。
ファッションも含めてヒッピームーヴメントの波がこんな風にハンガリーにも押し寄せてたのは驚き。
ライブシーンなんかを見てると西側と変わらないような。

出てくる女の子たちはもれなく可愛い。
ユリはお人形さんみたいでマリアンヌ・フェイスフルにも似てるなぁと思って眺めてた。
口数が少なく身振りも慎ましい。
主人公でありながら控えめすぎるほどの演技はメーサーロシュ監督の意図なんだろうなぁ。
でも視線や微かな表情の動きでしっかり機微を表現してた。
終盤、ベッドに横たわった彼女の足から首筋を辿って捉えるクローズアップショットが美しい。このアートは60sのゴダールに通じる。

ラスト、優しいメロディに包まれ長回しで捉えるユリの表情。
夫となった彼に髪を乾かしてもらいキスされ愛撫されて表面は微笑んでるものの、瞳には"妥協"の念が映る。
音楽と裏腹な、この微かな虚しさはスコアアップポイント。
ミスチルの『渇いたkiss』を連想した。
KANA

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