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オッペンハイマーのKANAのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1

満を持して鑑賞。

『TENET』を手がけた後、現実世界における核の脅威の意味について考えるようになったことが本作につながっているそうで(『クロ現』より)、そこを踏まえて観た。
個人的に、原爆の誕生、投下に至る経緯を初めて"俯瞰"したような気がする。
そして天才物理学者ロバート・オッペンハイマーが陥った恐ろしいジレンマを本人の視点で追体験できた。
当然のように時間軸を行き来するノーラン節に翻弄されながら。

まず右脳でキャッチしたお気に入りポイント。
『2001年宇宙の旅』の抽象映像とオーバーラップするような、核融合のヴィジュアルイフェクトが素晴らしい!
絶え間なく動く素粒子がオッペンハイマーの複雑な心理とも見事にマッチしてて。
教鞭を執る時は宇宙も映し、マクロコスモス↔︎ミクロコスモスと、物理学のロマンを感じさせる。

全編通して途絶えることなく乗っかるサウンドは凄まじい迫力。
『ダークナイト』『インセプション』『ダンケルク』の音響デザイナー、リチャード・キングの職人技。
量子の中に潜在する巨大なパワーを体感した。
特に"トリニティ実験"シーンの緊張感は半端なくて心臓も爆発そうだった。

地球を破壊する可能性が拭えないにもかかわらずボタンを押すという矛盾。
そのスリルは科学者たちの理知をも揺るがすほどの脳内麻薬なのか…

ユダヤ人故ナチスに負けるわけにいかない。
純粋な探究心と共に"マンハッタン計画"には心身ともに打ち込む。
そして原爆完成の、その先にあるもの。
それはソ連との冷戦。
政治の渦に巻き込まれていくオッペンハイマーの悲愴感がどんどん濃くなってゆく…

ノーラン自身が言ってるように、オッペンハイマーとストローズの関係性は『アマデウス』のモーツァルトとサリエリと重なる。
天才(アーティスト)と世俗。
カラーとモノクロで視点を変える細工も功を奏してる。


キリアン・マーフィーの繊細で神経質そうな雰囲気がオッペンハイマーにピッタリ。
天才とて割り切れないキャラや複雑な心境、演じるのは想像するよりずっと難しいと思う。
アメリカンアクセントも違和感なく。

狡猾なストローズ役のRDJの演技も素晴らしかった。
IMAXの(壮大なスペクタクルでなく)クローズアップがよく効いてて。
(ただアカデミー賞授賞式の彼の態度が頭にこびりついてたので、役柄とともに嫌な始めからイメージで見てしまってる面もあった)

風格が増したマット・デイモン、ジョシュ・ハーネットも素敵だったなぁ。


原爆を日本に投下する計画を具体的に(都市の選択等)話し合うシーンなどはとても生々しかったけれど、それもひっくるめていろいろ知れてよかった。ニュートラルな視点で。
しかも映画的手法が最大限に駆使された形で。

スピーチやインタビューでは真面目でシャイな人柄が伝わってくるクリス監督。
テクニックに魅了されるだけでなく、その思想に共感するところも大きい。
これからも期待したい!


p.s. トム・コンティのアインシュタイン、すごく似ててお茶目だった笑
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