グラビティボルト

レッド・ロケットのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.0
元ポルノ男優である主人公の無責任、いい加減という特性を極めた結果、どこかホラー的な恐ろしささえも兼ね備えた怪作になっていると思う。
無責任さが人を傷付け、搾取し、何なら野蛮さを浮き彫りにしてしまう。
「悪魔のいけにえ」と同じテキサスの夏を舞台にしているというのもあるんだろうけど、終盤の家に纏わる場面に立ち昇る不穏は本当に凄い。
別居夫婦の会話の距離感、妻がTVを消すと二人を覆っていた光も消えて、いよいよ闇が強調されたり、演技で魅せる場面にも必ず画面内の演出が仕込まれている。

冒頭、にっちもさっちもいかなくなった主人公が妻の実家に泊まろうと交渉する一連、敷地から出ていくように怒鳴られた男を左空けの構図で捉えて、妻がビーサンの足音を掻き鳴らしながらフレームインしてくる場面なんか、間がもう面白い。
コミカルな場面は上記のように沢山あるのに、工場から常に煙が立ち昇る煤けたテキサスというロケーションと、現実から逃避し、その場しのぎの金策に奔走する主人公の痛々しさが混じってきて
不穏もあれば笑いもある豊かな映画になっている。

あと、決定的な瞬間を避ける精密な編集も怖い。
冒頭、主人公が別居中の妻の家に入れて貰う瞬間はカットされてるし、
スザンナ・サンが働くドーナツ屋のカウンター内側に入る瞬間もカットされている。
そして、あの「事故」の瞬間も勿論省かれる。
彼が他人に近付いたり、決定的な破滅の瞬間を悟ったりする瞬間は省かれてダラっと人生が進行してしまう生々しい見応えが湧いてくる理由になっている。
他にも、自転車を使った移動シーンに心情描写を託す役者のアクションへの信頼ぶりとか、スザンナ・サン演じるドーナツ屋の店員との諸々のファックシーンでの安っぽいズームの面白さだとか、クライマックスの意趣返し展開で、他人から金を巻き上げる母娘の恐ろしい切り返しだとか、色々忘れ難い細部に満ち溢れている。

「フロリダプロジェクト」の後にこれを撮れるショーン・ベイカー、マジで頼もしく感じる。