Habby中野

コンパートメントNo.6のHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

本来、彼女の目的は歴史的彫刻のある場所とそれの持つ過去の時間の壮大さに邂逅することではなく、同行するはずだった恋人との進行する親密な時間そのものにあった。内なる旅行。それはもはやどこへ行っても大差はないもので、よく言えばまんまパートナーを見つけた人の恋愛的理想蒙昧生活志向/思考/嗜好/私行に似ている。
しかしモスクワ発の寝台列車は、彼女の矜持と哀しみと疑念と希望と孤独だけを同乗させて豪雪の中を走る。そして同部屋には酔っ払いの労働者。窓の外の寒さ。中の居心地の悪い暖かさ。だがこの極端に狭い世界は、この不快さこそは誰よりも彼女に親密さを示し、外へと連れ出すのだった。彼は外の寒さではなく雪の冷たさを、人の温かさを、窓ガラスやカメラ越しではない世界の広さ、止めどなく流れている時間を教えてくれる、とても不器用に。彼の存在は、彼女にとって─この呼称さえも要らぬものなのかもしれない─二重人格的で、相反していて、なによりも親密だ。
人の内側は自分と、外側は世界と接している。雪の中を走った先の歴史の端はただの岩であったが、吹雪の中の戯れはその皮膚に冷たさと暖かさを伝えた。風は強いが今いいとこ。外は寒い。
Habby中野

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