ひこくろ

半狂乱のひこくろのレビュー・感想・評価

半狂乱(2021年製作の映画)
4.4
想いと勢いとテクニックを駆使して、やりたいことをやりきった映画なんだろうなあ、と思った。

基本的には冒頭から最後まで、めちゃくちゃなスプラッタで彩られている。
が、畳みかけるようなテンポ感と、緊張感あふれる演出、そして苛立ちが滲み出る演技によって、それがギリギリのところでリアリティを保っている。

さらに、役者の狂気が存分に弾ける舞台という異空間が、説得力をより高めていく。
公演中に事故でひとりが亡くなったのを受けて、主役の一人、小山田は舞台を中止しようとする。
が、もう一人の主役、杉山は舞台を続行させようと躍起になる。
どこからか日本刀を持ち出してきて、杉山は反対する役者を斬り殺す。
そればかりか、小山田を監禁し、劇場の出入り口をすべて封鎖すると、逃げようとする観客までも殺してしまう。

舞台上で繰り広げられるのは、まともな神経の人間なら立っていられないだろう、狂気のお芝居だ。
暴力で人を脅し、殺し、犯していく。そこから目を背けることさえ許そうとしない。
その狂気のなかを、杉山は目を血走らせながら、突っ走っていく。

なぜ、彼はそんな芝居を続けることになってしまったのか。
映画は何度も過去回想を挟んで、そこに至るまでの経緯を明らかにしていく。
ただ、一筋縄ではいかない。なんと、この過去もまたやっぱりスプラッタじみているのだ。

芝居という舞台装置がなかったら、おそらく観てはいられないものになっていただろう。
それが、「芝居」というその一点があるだけで、許容できるようになるのが面白い。
動機の部分が、夢とか情熱とか野心とか、あるいは、究極の芝居を目指す、といったものではなく、ただの焦りというのも、リアルだよなあと感じた。

かなり力技で見せてくる映画だったけど、面白かった。
僕はこういうの好きです。
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