ひこくろ

劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそのひこくろのレビュー・感想・評価

4.5
厳しい練習を積み重ねて上手くなっていくスポ根要素と、繊細な心理描写が絡みあった、思わず胸が熱くなる青春群像劇だった。

彼女たちの姿はまずは温度差の違いから描かれる。
本気でいる人間と、本気ではない人間の気持ちの差。
集団で何かをすれば必ず生まれるこの温度差は、本気の人間をとことん苦しめる。
「どうしてやろうとしないの?」という苛立ちと、どんなに頑張ろうと周りが変わらない絶望感が、本気の人間を孤独にする。

そこに瀧先生という異物が入ってくることで、状況が変わってくる。
優しいスパルタで、本気でなかった生徒たちの気持ちにも変化が生じ、やがて全員が「全国大会へ行く」という本気に染まっていく。
その様子がとても熱い。

一方で、生徒たちそれぞれが抱える思いも丁寧に描かれていく。
温度さとはまた別の意味で、生徒たちはみんなバラバラだ。
それぞれ考えも違ければ、抱えている思いも異なる。
だから、彼らは時としてぶつかり合うし、逆に支え合いにもなる。
そういった感情の機微を丁寧に掬い上げるように描いた繊細な描写が胸を打つ。

多様性って言葉が安易に用いられ、肌の色や国籍、性別なんかで簡単に表現される風潮があるが、本当の意味での多様性ってのはこういうことなんだろうなあ、と思わされる。
それぐらいみんな違って、みんながきちんと人間としてそこにあるのだ。

そして、特筆すべきは構成の上手さだろう。
映画はテレビシリーズの総集編で、尺の都合で多くのシーンはカットされている。
描かれていないエピソードも多い。
が、それがまるで気にならないほどに必要な部分が必要な分だけ盛り込まれている。
それでいて、まったくダイジェスト感がなく、むしろ余白までしっかりと感じさせられる。
完全に一本の映画として成り立っているので、テレビを見てなかった人でも楽しめるはずだ。
また、テレビを見ていたとしても、物足りなく感じることはないだろうと思った。
映画として素晴らしい出来だった。

音を出す楽しさ、難しさ、どんなに努力をしても才能の前には勝てない現実。
怒り、誇り、苛立ち、友情、悔しさ、自信、不安、緊張。
本当にいろんな感情がこれでもかと表現されていて、それが全部胸に突き刺さってくる。
京都アニメーションによる美しい映像ともあいまって、素晴らしい青春群像劇になっていると思った。

熱く深くやさしく厳しい、いい映画だった。
ひこくろ

ひこくろ