りっく

The Son/息子のりっくのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
4.5
前作『ファーザー』を遥かに凌駕する家族ドラマの傑作。思春期の息子と彼と同居する元妻、そして現在の妻と幼い娘、さらには仕事と家庭との狭間で、どのように父親として振る舞い、声をかけ、寄り添うことができるのか。

父親への尊敬と憎悪。それは脈々と受け継がれ、嫌いだった父親と同じような言葉や仕打ちを愛する息子にしている瞬間があることに気づき戦慄する。時を経ても真に理解し合うことはできず、過去を書き換えることは二度とできない。そのような状況で、一体父親は息子にどのように対峙すればよいのか。それを圧倒的なリアリティで本作は突きつける。

一方で息子の悲壮感や無力感、低い自己肯定感、人生に意味を見出し生きなければならない重圧や徒労感も真に迫るものがある。強さや自信、責任や成長を期待され、それが我が子の人生に必要不可欠だと信じてやまない親と向き合わなければならない辛さ。自分が浮気したことによって家族が別れた過去を棚に上げ、正論を振りかざすことへの苛立ち。心の根っこにある感情からは逃れることができない。

劇中のハイライトのひとつである、ダンスシーン。父親と再婚相手の二人だけの思い出に、息子が傍観者ではなく自発的に加わって羽目を外す。ここだけ切り取ると一見新たな家族の和解や幸福な関係性の構築が始まったように見えるものの、やはり息子は悲壮感に苛まれる。

このような場面と感情の乖離、あるいはレッテルや決めつけによって相手をイメージや上辺だけで理解したような気になる場面を要所で挿入することで、全編に緊張感や徒労感を充満してみせる演出と、特に父親を演じたヒュー・ジャックマンの演技が素晴らしい。

またヒュー・ジャックマンが父親から贈られた洗濯機の裏に飾られている猟銃の存在が、さらに本作の危うさに拍車をかける。この猟銃が父親の趣味を息子に押し付けた=息子と向き合っていない象徴として機能し、さらに猟銃を直接的に見せることなく、半開きになった扉から洗濯機が見える、あるいは回っていた洗濯機が止まるといった演出だけで、観客の想像力を掻き立ててみせる。
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