Kachi

ミラベルと魔法だらけの家のKachiのレビュー・感想・評価

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
4.2
【分かり易いヴィランのいないディズニーアニメーション作品】

「ズートピア」と同様、多様な見方を提示してくれる渾身の作品。

本作は、ある特定の魔法(ギフト)を幼少期に授かる家族の中で、ギフトを持たざる外れ者として不遇な境遇にあるミラベルが、マドリガル家の「奇跡」の終わりを予感し、家族を守るべく奔走する物語。

南米を舞台とし、ミュージカル映画であることから小気味良いテンポで物語は進行する。そのため、頭を空っぽにしてミュージカルを楽しむだけでも十分堪能できる。

それに加えて、本作は「ギフト」を鍵概念として現代社会を映す鏡のような側面を持った奥行きのある作品であると受け取った。備忘録的に、頭に浮かんだことを書いていく。

1. 過去の救済の物語は現代に於ける呪いにもなる

マドリガル家は、Encantoの平和と繁栄を司る名家と位置付けられており、その長たるミランダの祖母は使命感をもって「マドリガル家の安定と継承」に努めている。そのことが、マドリガル家が授かった「ギフト」の力を弱め、喪失に向かわせる結果となる。

作中冒頭で「マドリガル家」のあるべき姿がミランダ自らによって歌われるが、これに該当しないミラベルやミラベルの父、そしてタブー視されたブルーノが排除される構図が浮かび上がる。敢えて言えば、本作のヴィランはまさにこの「マドリガル家かくあるべき」というドグマに他ならないだろう。

2. よそものが社会を刷新する

「マドリガル家」のあり方に疲弊したギフトを承継した家族構成員は、ギフトを持たざるミランダとの会話を通じて重責から解放される。その帰結が、家の倒壊という形で象徴的に示される。

家を基礎から作り直すこと、仕上げのドアノブをミラベルが付けることは、マドリガル家創設物語の終焉と再生、そして出発を暗示しており、ミラベルの祖母が背負っていたEncantoの安定と平和の維持という十字架からの解放も成された。

3. Build Back Better

コロナ禍という文脈でもつい観てしまう。それは、コロナ禍によって顕在化した現代社会が抱える諸問題(構造的な格差、国のあり方、国際協調の方向性…)を見つめ直し、再構築する時がきたのではというメッセージを、ついつい再生の物語に見出してしまう。

エンターテイメントを観に行ったはずが、あれこれ考えている間にエンドロール。大学時代の先輩が、米国のDisney Studioで働いていることもあり、名前探しというオマケまであった非常に濃い映画体験だった。
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