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ブレードランナー ファイナル・カットのarchのレビュー・感想・評価

4.8
一回目の鑑賞が中学生ぐらいのときで、正直よく分からなかったのを覚えている。いわゆるアクション映画だと思っていたからなのは間違いない。(なんなら剣が出てくるのだと思ってた)

改めて劇場でファイナル・カットを鑑賞した訳だが、本当に素晴らしい映画であった。まずファイナル・カットは以前観たバージョンだろうディレクターズ・カットよりも非常に美麗な映像に仕上がっていて、冒頭のカットから信じられない映像体験になっている。またバージョンの違いであるラストカットの違いは正直ディレクターズ・カットの方が『シャイニング』や『グッドウィルハンティング』みたいで好きなのだが、「よっしゃ逃げるぜ!」感があってこれも確かにいい。

アジア圏の文化が乱雑に取り込まれた街で、雨の中物語は進んでいく。太陽は映像として投影されるだけの世界は、常に暗く映し出され、人類が既に宇宙に進出しているのにも関わらず、閉鎖的な印象を受ける。
レプリカントとは人類が奴隷として生み出した人造人間である。彼らの寿命はわずかに4年、しかしそれ以前の過去を捏造しているために自分をレプリカントだと認識していない者もいる。その中で脱走した4名のレプリカントを主人公デッカードが追うというのが本作の大まかな流れである。人間と同じように感情を持ちながら、4年だけの人生。彼らは我々が死を恐れるように最期を恐れ、どうにか延命できないかと「創造主」たるタイレルのもとに向かい、救いを請う姿は悲劇的で、人間が創造主たる神に会えないことに一種の救いすら感じてしまう。

なんといってもやはりラストのロイ・バッティのイエスのような存在感が白眉だろう。デッカードを助ける天使のようであり、そのニュアンスを鳩が補強する。手に杭を指す姿はまさに宗教的な意味合いを持ち、レプリカントの救世主たろうとした彼の意志を感じる。
ここでロイ・バッティがこれから消えようとしている記憶について語る。この数秒の台詞がこの世界を押し広げ、暗雲の中で生きてきたデッカードと外宇宙を生きていたロイを対比させる。果たしてどちらが「素晴らしい人生」だったのか。
レイチェルを連れ出したのもこのロイの最期があったからに他ならない。
本当に完璧なラストだ。
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