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最初の54年間 ― 軍事占領の簡易マニュアルのmingoのレビュー・感想・評価

4.0
軍事占領の簡易マニュアルを赤裸々に語るモグラビ監督の新作。

イスラエルは67年戦争で西岸とガザ地区を占領。それまで西岸はヨルダン領ガザ地区はエジプト領だった、5カ月国連の安保理は決議242を採択し占領地からの撤退をイスラエルに求めた。しかしその後54年西岸とガザのパレスチナ人はイスラエル軍の支配下で暮らしている。占領を長く続けるには多くの人員と保守整備そして戦略が必要。近代で最も長く続く占領だ。その2000人の兵士たちの貴重な証言。元イスラエル兵のブレイキングザサイレイスによるもの。占領とは領土を軍事的に支配すること。もし人が住んでいれば住人の統治も必要になるし占領地を自国の領土にすることもできる。

パート①67-87年はじめにしたこととして「地元民の帰国を禁じた」
被占領民による抵抗を封じ込める。占領地の総人口における地元民率を下げれば誰の領土かも目に見えてくる。つまり土地は入植者のものになりどちらも自由を求めて頻発するテロが問題化する。泥とわらで出来たテロリストの家を爆破し「家の鍵」を兵士間で集めるのが流行りで今は返したいから持ち歩いている。被占領民の弱みを利用。密告者を増やすことで情報を集める。尋問や拷問の目的は犯罪の摘発ではなく、社会全体を引き裂くこと。入植者は祖国の方に則ってと行動する。民主主義のもと選挙にいくが、一方軍の司令官が決める法に従わざるを得なくなり被占領民は強制される。司令官の命令はいわば法律。

パート②87-2000年統制力の喪失。
パレスチナ人は土地を奪われ暴力を振るわれてきた。自決権への期待を何度も裏切られた結果87年12月最初のインティファーダに出た。西岸とガザに住む多くのパレスチナ人が武器を持たない抵抗運動に参加した。そこで相手の「手足の骨を折れ」と命令がくだる。「車の保険がきれてるぞ」と難癖をつけてただひたすらにこん棒で殴る。この20年が電柱のパレスチナ国旗や壁の落書きが無駄だったことの証である。そこで重要になってくるのは身体的支配。そこで個人を身体的に支配し集団を支配する。個人の責任を連帯にすることで無駄な暴力が蔓延り、支配において最も大切な「情報戦」へと移行しさらに広がる負の螺旋。そしてある意味さらなる「分離」が進んだオスロ合意。武力を伴う第二のインティファーダへ。

パート③2000年から現在、統制力の完全な喪失。パレスチナ人は自爆テロで自由を奪った代償を払わせるという決死の行動へ。平穏を取り戻すことより暴動を抑え込むタームへ移行。情は捨てて攻撃すること。無差別に襲い、境界線を決め移動を禁止する。そこで市民を守るためという名目の分離壁の設置。取り締まりの強化。やがて血を流し合うことでしか見えなくなる未来。洗脳された兵士と攻撃する民衆、和解の道は断たれた。
07年イスラエルとエジプトはガザを包囲、ハマスはイスラエルをロケット弾で攻撃、それを受けてイスラエルはガザを攻撃、対立は激化の一途を辿る。08年ガザ地区のキャストレッド作戦での最後の爆撃で物語は幕を閉じる。
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