榊ニル

THE FIRST SLAM DUNKの榊ニルのネタバレレビュー・内容・結末

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ロングランに救われ、ギリギリでの劇場鑑賞。

感想を言う前にまず、本作のロングランを支えてくれたリピーター達に感謝を述べたい。
劇場で本作を体験させてくれてありがとう。

前提として、私はインターハイ海南戦までをアニメ版で視聴し、それ以降山王戦直前までを単行本で読破し、鑑賞に臨んだ。つまり本作でどの様な死闘が繰り広げられ、どの様な結末を迎えるか知らなかったわけだ。これ程まで恵まれた環境での映画体験は中々味わえないだろう。原作ファン、及び本作がスラダン初体験の映画ビューアー達よ。羨ましいだろう?言うまでもなく最高だったぞ。

まず語らせてほしいのは、りょーちんこと、宮城リョータの物語だ。前情報で原作以上の掘り下げがあるとは聞いていたが、彼にあそこまで暗く重いバックボーンがあったとは。

本作で、幼少期の宮城リョータが父と兄を亡くし、名プレイヤーを約束された兄の幻想を追うかのように、バスケを続けていた日々が描写される。その中で、母親とのギクシャクした親子関係を見せられるのだが、これが中々辛い。母親は亡くなった長男ソータへの未練が積り、次男であるリョータに対して愛情を向けられずにいるのだが、そんな母親に育てられる中、自分が愛されていないと日々感じているリョータを見ていると胸が苦しくなってくる。

特に心をえぐられたのは、物語の終盤で描かれる回想。リョータはインターハイ本戦直前で、母親に手紙をしたためるのだが、冒頭で「(兄貴ではなく)俺が生きていてすみません」と書き綴るのだ。たった17歳の、まだ生を受けて間もない少年が、自分の存在を懺悔しながら生きている。そんな悲劇があって良いはずがないと、涙を込み上げずにはいられなかった。

このシーン前後は、「スンスン」と涙を啜る音が劇場で鳴り止まなかった。
‥‥‥妙だな。本鑑賞は、過去開催されたイベントの収録映像付きの上映だったため、観客の割合としては、リピーターのファンの方が圧倒的に多かったはず。チケット予約開始時から一瞬で満席になってしまったので、尚更初見が少ないに決まっている。にも関わらず「スンスン」が聞こえていたのだ。
本当に勘弁して欲しい。あんたら何回も見ているんだろ?りょーちんが辛い人生送ってるのは既に知ってるんだから、もうちょい音出すの我慢してくれよ。こっちも釣られて余計感極まっちゃうだろうが。

散々暗い話をしてしまったが、山王戦に挑む前に、りょーちんが過去、そして今としっかり向き合うシーンも描いてくれているので、前向きに彼を応援する姿勢を持てる作りになっているのが良い。おかげでより熱い気持ちで試合を見ることが出来た。

試合といえば、本筋である山王戦のアニメーションも凄まじかった。アニメ、原作両方と比較した上で感じた事だが、本作はとにかく試合運びが分かりやすかった。私はバスケに関しては無知の極みで、学生時代体育の試合でスコアラーを任せられた際「右のゴールに入ったら点数入れるのも右側で良いんだっけ、いや逆か?」と錯乱し、適当に点を入れ混沌を生んだ過去がある。
そんな、コート外のゲームメイカーこと私が見ても、本作の試合描写はスッと直に頭に入ってくる。

バスケ無知の私目線、正直アニメや原作の試合描写は、寄りの画が多いからか、各選手の位置関係や立ち回りがイメージしづらく、理解するのにかなり時間を要していた。何ならついていけて無いけど、何となく理解した気になってスルーした場面も多々ある。「ヒカ碁」読んだ時も同じ事やってたなー。
しかし本作では、引きの画でコート全体を映しつつ、迫力のあるプレーを見せる時はその都度寄りの画で、という手法を取っているので、置いてけぼりになる状況が一切なかったのがありがたい。

山王のプレイングの凄まじさも、映像でしっかりと魅せつけられた。

特に印象的だったのが後半戦始まって3分経過時の一連のプレイ。山王6番がゴールすると見せかけて、ゴール下の4番にパス。そこでマークしていた三井が飛んでブロックするのだが、後ろから唐突に現れた9番沢北にビハインドパスが回り、華麗にゴールを取られる。

‥‥‥あんなのされたら打つ手無いやん、連携取れすぎだろ。流石にフィクションよね?現実であんなプレイできないよね?
どうなんですか?有識者の方々。

上記に限らず、沢北を中心に繰り出される山王のスーパープレイの数々は、どれも見応えがあり、映像としての面白さと、強敵としての絶望感が同居していて常に興奮状態でした。

他にも汗の飛び散りで躍動感を表現したり、
床にだけ流線を描いてスピード感を出したりと、アニメ的な誇張表現を最小限にしつつ、しっかりと迫力を感じられる演出の数々も見所。
漫画原作者が総監督で、かつ初経験なのよね?
何であんなに巧い画を作れるんだ?

あとはさあ、後半残り20秒の大接戦よ‥‥‥。何あの空気感。今までテンション高めの演出ばっかだったのに急に無音にするなよ。緊張で窒息死しかけただろうが。劇場も空気がピリッピリでさぁ。誰も1ミリヘルツの音すら出さないのよ。おかげで唾を飲み込む余裕すらなかったわ。
何度も言うけど、これイベント映像付き上映だから私以外皆リピーターのはずだよね?あんたら何回も見てるんd (中略)。

とにかく、観客全員が初見なんじゃないかと疑うくらい、緊張感のある劇場でクライマックスを楽しめました。

改めて振り返るけどさあ、流川がついに逆転ゴールを決めるじゃん。もう後は守れば勝ちじゃん?
でもその後すかさず沢北に逆転されるじゃん。
え!?!!?!もう時間ないのにどうするのよ湘北!ってパニックよ。
したらいつの間に花道がゴールへ駆けてて、
ゴリからボールを託された流川も瞬足で後を追ってさ。でシュート決めようとするけど山王の鉄壁ブロックで八方塞がり。もう積みじゃん。でも体と体の間に出来た丁度隙間から、スタンバイしてる花道が見える‥‥‥!
パスするじゃん‥‥!
合宿シュート決めるじゃん‥‥‥‥!
決まったァア‥‥‥‥‥!
そして数秒の沈黙の後、本能で反応してしまったかのようにハイタッチ‥‥‥!
オィイ‥‥‥!お前ら散々いがみ合ってた癖によぉ‥‥‥!!!そんな演出ズリいよぉ!

この一連のシーンを見て、「原作最後まで読んで来なくて良かったァ‥‥!」と、心の底から思いました。劇場で見るには贅沢すぎたな。

語っておきたかったのはこれぐらいですかねー?
本当は、「1度バスケから逃げた癖に、未練タラタラすぎだろ三井」とか「高品質なアニメーションで見る流川の動きは化け物だな」とか「そりゃあ旦那と呼びたくなる漢だわ、ゴリ」とか「実力は未熟とはいえ、花道いなかったら山王には勝てなかったろうな」とか「安西先生は名監督ではなく、狂気のバスケットマンなんだな」とか、各キャラの長文レビューもしたい所だが、これから原作最後まで読まなきゃいけないんでやめておきます。

「ここまで出来のいい映像を見た上での山王戦、コミックで果たして満足出来るのだろうか?」
そう懸念してしまう程の傑作だった。
本作きっかけで、名作ジャンプのベストバウトを映画化する流行生まれないかなー。
サバイビー全編とか、ネウロの新しい血族編とか、チェンソーマンファミリーバーガー編とか、最新技術が駆使された極上映像で誰か作ってくれよ‥‥‥。

余談、知り合いのスラダン厨(鑑賞数20回以上)によると、試合中の実況解説を副音声で楽しめるオプションがあったらしい。それ、ソフト化した時の特典では当然入ってるんだよなぁ?イノタケ先生よお!?これからも要チェックや!
榊ニル

榊ニル