山本Q

アステロイド・シティの山本Qのネタバレレビュー・内容・結末

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ウェスアンダーソン新作。見ない理由はない。


前提として映画の舞台になっているアメリカの1955年という時代。その時代のアメリカの在り方のようなものが分からないので、作者の意図を十分に受け取れてはいないと思う。

映画としてはあんまり面白い感じはしなかったけど、ウェスアンダーソンの映画に映画的な面白さを求めているわけではないのでそこはよし。「グランド豚ベストホテル」以降は、それまでとは別な課題に取り組み始めたように見える。

見たいのは「ウェスアンダーソン映画でしか見れないもの」で、今作ももちろん期待していたものはバッチリ味わえる。というか、「ライフアクアティック」「ムーンライずキングダム」の頃のニュアンスを感じる。かといって過去に回帰したわけでもない。

直近の「フレンチディスパッチ」では、画面の画角操作まで踏み込むような大胆な映画話法の模索がなされていたような気がするけど、今作では、過去に立ち返り舞台的な世界観を強調したような語り口の模索。映画が持つ特徴的な語り口一つであるアクションを意図的に排除して、登場人物による語りがより立つようなことを推し進めたかったのではないだろうか。
ドラマ性やヒューマニズムみたいなものは整理されて、記号性のようなものが際立っていたように見えた。何を記号性に落とし込んでいたかというのは言語化しずらいけど、好きなものをミニチュア化して映画に封じ込める作業に没頭しているように見える。作品を映画としての価値より一歩先、ウェス作品としての価値の在処みたいなところを目指していて、いわゆる映画的喜びみたいなものは随分興味が薄れているように見えた。これは、彼が自分の独自性に確信を抱いて歩み始めた、また歩み始める権利を過去の作品によって獲得できた成果なんだろうなと考える。
 作品から映画を撮らなければいけない切実さのようなものが徐々に失われているのは寂しいけど、それでお常に先に進もうとする勇気と好奇心を見せつけられて眩しい。

軍人や核実験など、真剣味や恐怖が排除された暴力が読み解けないので引っ掛かる。それは、テレビ(そして、当然当然映画)の暴力に対するウェスアンダーソンのスタンス表明だろうとは思うけど、かと言って何が言いたいかはよく分からない。わざわざ画面には入れているので、興味関心がないということは考えずらい。が、かと言って受け取り方をわかりやすく示唆されているわけでないので
くだらない事だと言いたいのか。所詮は虚構にすぎないということかしら。

キャスティングで驚いたのは、ビル・マーレーとオーウェン・ウィルソンが欠席。ウェス作品の顔とも言える二人なので単純にびっくり。
新顔として注目はやはり、スカヨハとトムハンクス、そして個人的な喜びはスティーヴ・グルー・カレルがまさかの参戦。初めてマヤ・サーマン=ホークが見れたのも嬉しい。普通に美人だった。あれ、見逃したかな?というところで現れるマーゴットロビーはなかなか美味しい役だった。他はいつもの面々というには贅沢すぎる顔ぶれで、どの画面も嬉しい顔ばかり。一番良かったのは三姉妹。あまりにも可愛すぎた。
山本Q

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