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土を喰らう十二ヵ月のkabcatのレビュー・感想・評価

土を喰らう十二ヵ月(2022年製作の映画)
3.7
原作は未読のまま鑑賞したが、他の人のレビューを見ると原作は純粋なエッセイであり、映画化にあたって脚色されているようだ。季節の移り変わりにより提供される自然の恵みをいただきながら暮らす作家の生活に、老いや死といった重いテーマをからめて奥行きを出そうとしているが、義母や自身の病気の話はいいとしても、年の離れた女性との恋愛話は余計なように思えた。まさか演じるのがジュリーだから色気あるお話もちょっと入れましょう、ってわけじゃないよね(そうだとしたら下世話すぎる)。

料理の場面はとても楽しく、できあがった料理よりもツトムさんが材料を調達し、それをていねいに調理する姿をずっと見ていたいくらいである(先日観た『ポトフ』を思い出す)。洗ったお米をザルに上げていたので、バックは土井善晴さんかなと思ったらやっぱりそうだった笑。

ツトムさんが歩く長野の田舎の風景や古民家も美しく、あの旧式なかまどで炊いたお米はさぞ美味しかろうと思う‥と同時にスマホのある時代にあそこまで浮世離れした暮らしをするのはやはり映画のなかの出来事だから、とも思ってしまう(実際の水上勉が原作エッセイを書いたのは今より50年近く前の時代のことなので)。

水上勉はハンサムな作家というイメージを持っていたから、沢田研二のキャスティングはなるほどと思わせるもので、料理する姿も板についていた。真知子の話はあまり納得いかないが、この話を入れなければならないとしたら、松たか子がベストだったろう。さんしょという名の犬の存在感もよかったが、まるでカウリスマキ映画に出てくるような寡黙さだった。
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