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チェルノブイリ1986のsomaddesignのレビュー・感想・評価

チェルノブイリ1986(2020年製作の映画)
4.0
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かつての恋人と10年ぶりに再会を果たした消防士のアレクセイ。首都キエフへの異動も決まり、新たな人生に踏み出そうとしていた矢先、地場産業である原発で爆発事故が起こり、穏やかな日常が一変してしまう。

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公開が決まり、劇場予告を見た頃にはよもやこんな事態になっていようとは。


監督ダニーラ・コズロフスキーは若き消防士アレクセイとして主演も務める。
サンクトペテルブルク国立芸術アカデミーの演技/監督コース在学中に「リア王」のエドガー役で舞台デビュー。卒業後は数々の映画・ドラマで知名度を上げ、「ヴァンパイア・アカデミー」(2014)でハリウッドデビューも果たす。「マチルダ 禁断の恋」「ハードコア」などに出演し、人気俳優として盤石な地位を築き、2018年には「The Coach」では初監督も務める。ロシア映画界注目の新鋭。

膨大な目撃証言や当時の記事、アーカイブ映像をもとに綿密なリサーチを実施して作られてという今作。当時関わった消防士や医師・エンジニアらに取材を行ってもいて、ある女性医師の話によれば「原子炉建屋の炎を消すために投入された消防士たちが最初に入院してきた時、若くて陽気な彼らは冗談を言い続けていたが、医師たちはもうすぐ全員が死んでしまうことを知っていた」と語る。

今作の大部分の撮影は、実際にクルスク原子力発電所で撮影されている。チェルノブイリ発電所と同じ設計図で作られていていたので、外観含めてロケーション含めてピッタシだったのが理由だそう。根気よくロスアトム(国営原子力企業)とロシア政府を説得した結果、最終的には信頼と理解を得てロケが敢行された。


ソ連時代ならきっと造られなかったであろう映画だけど、今この状況を踏まえて見てしまうと、ロシアの現体制だから作られた映画に思えてしまう。映画そのものはウクライナ侵攻のずっと前に作られたものだし、なんなら原発事故の人的要因にハッキリ踏み込んでけど、事故の遠因となった体制的欠陥には踏み込まない。
個人のヒロイズムに焦点を絞った作りで、大災害(人災)に振り回される庶民の暮らしが真に迫る作りの一方、献身や自己犠牲を過剰に賛美してるようで、ちょっとそら恐ろしくもなった。(そもそも動員された多くの軍人や消防士は、放射線の危険性とか知らされずに強制的に参加させられてた訳だし。英雄ってより被害者でもあるような)
すごく穿った見方をすれば戦意高揚映画にも思えてしまう。
映画情報サイト「BANGER!!!」の記事によれば
https://www.banger.jp/movie/77638/
プロデューサーのロジニャンスキーはウクライナを代表する映画人であり、ロシアの侵攻を受けて、監督・主演のコズロフスキーとともに戦争反対の意志を表明した。また本作の日本配給を担当する株式会社ツインも、「戦争を行っている国家としてのロシアではなく、戦争反対を表明し一日も早く平和が訪れることを願う、ロシア、ウクライナを代表する映画人によって製作された本作の公開を通じ、世界を震撼させた大事故のなかで必死に生きようとした人々の姿を知り、平穏に暮らせる日々の尊さを再認識する一助となることを願っています」との声明を発表。収益の一部をウクライナ支援に寄付することを明かしている。


余談)
スキンヘッドの強面大佐ボリスを演じたニコライ・コザック。1986年当時は兵役中でキエフ(キーウ)への配属を希望していたが、却下されてしまう。のちにキエフに配属された同僚たちは原発事故の後処理に回され、二度と彼らに会うことはなかったという。こわ!

39本目
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