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わたし達はおとなのRenのレビュー・感想・評価

わたし達はおとな(2022年製作の映画)
4.0
全幅の信頼を置いている藤原季節出演とあらば観るしかなかった。一切の説明的な台詞・描写を用いずに日常を切り取ることに成功した、最悪で最高の青春映画。「こういう映画、何回目だよ....」という観客の懐疑心を圧倒的なリアリティで蹴散らした、再見したくない傑作。

『花束みたいな恋をした』『ちょっと思い出しただけ』のときにもよく引き合いに出されてはいたけど、『ブルーバレンタイン』の最も正当な暖簾分け映画は今作だと思った。始まりと終わり、地獄のカットバックをこれ以上無い解像度の高さで見せつける。

撮り方もいちいち良い。ほぼ全シーンで画角の手前側にピントが合わないエキストラや家具や柱や植木が映り込んでおり、それは少しあざといかなと思ってしまうくらいなのだけど、「他人の人生を覗き見ているかのような」リアルの演出として高性能に機能していた。作品のテーマとして非常に正しく効果的。

物語の中心にあるのは 学生の望まない妊娠 というセンシティブな(かつ、自分とは無関係だと思うかもしれない)題材だけど、そこに付随する人物たちの言動や感情を全くの他人事だと受け流せる人はいないはずだと思いたい。それはあなたが人生のどこかで「したことがある口論」で、「見たことのある暴言/暴力」で、「起こしたことのある癇癪」で、さもなくば「こうはなるまいと誓った人間の暗部」そのものだ。

有害な男性性を持つキャラクターを、現代の20代の学生で体現した点が素晴らしかった。映画的・ジャンル的な要素に包まずtoxic masculinityを描いたリアリティ。
ただもし今作を、直哉(藤原季節)はクズだけど彼 “だけ“ が駄目な話と片づけてしまう人がいたら、それはそれでどうなの?とも思ってしまう。

ある意味で大人を象徴するイベントである妊娠を通すことで、成熟しきれていない若さ故の衝突が炙り出される。「わたし達はおとな」なのかもしれないけれど、側から見ればそんなことはなく。あの頃の精神性のまま時間だけが流れてしまったことに自覚的な『ボクたちはみんな大人になれなかった』とは全く違う視点から名付けられたタイトル。

観る者の心に傷を付けるアプローチ(芸術とはすべからく人を傷付けるべきものだ)で、全員の自分事にしてみせたバキバキの映画。そこには、ひとときの煌めきをふと思い出してしまうほんのひと匙の余韻すら、無い。映画に感情移入も理想像も必要とは限らない。心の瘡蓋を剥がされてヒリヒリする感覚も立派な映画体験。逃げ場の無い劇場で、腕を掻きむしりながら観てほしい。
「ただ露悪的な要素を見せたいだけ」との意見も散見しましたが、それならそれでいいけど、今作で描かれる暴力性に全く無自覚になることだけは避けてほしいな、とも。

加えて、今年度のベストエンドロールでもあるので、そこも含めて楽しんで。某人のある決断の後、それでも人生は続いていくのだと突き放す、かつ見守る、かつ諦めかつ受容....。『Swallow/スワロウ』を彷彿とさせる洒落たエンドロール。
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