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キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのHKのレビュー・感想・評価

3.9
本作はモーガン・フリーマン製作総指揮による、黒人の独居老人ケネス・チェンバレンが白人警官たちに殺された実話の映画化です。
しかもつい10年ほど前、南部の片田舎ではなく大都市ニューヨークで起きた事件です。
そして致命的なのは、警官側は誰一人裁かれていないこと。

発端は、障害を抱え心臓も弱いチェンバレンによる緊急の医療用通報装置の誤操作。
医療センターからの指示で安否確認に来たはずの警官たちによってチェンバレンが殺されてしまうまでの約90分間がほぼリアルタイムに描かれます。

なぜケネス・チェンバレンは殺されなければならなかったのか。
なぜ警官たちは無実の独居老人宅に押し入ってまで殺人を犯したのか。
なぜその警官たちに何のお咎めも無いのか。
もしもこの老人が白人だったら結果は違ったのか。

“警官を見て安心する者もいれば、恐怖を感じる者もいる”
本作の冒頭のテロップです。
警官を見て恐怖を感じるのが犯罪者だけとは限らない世界の恐ろしさ。
本作の後半では警察はもはや悪の集団です。

就寝中だったチェンバレンは最初から具合が悪そうで精神疾患に心臓疾患も抱えています。
警官にドアをガンガン叩かれ、耳を押さえて苦しむチェンバレンは補聴器をしていました。
私も補聴器をしていますが、ある種の音は補聴器を通すと耐えがたい大音響になります。
警官は心臓が悪いチェンバレンにテーザー銃(スタンガンの一種)を使い、さらには・・・
終盤は観ながらもう勘弁してくれと言いたくなります。

たかだか10年前のこの事件は黒歴史でも過去の汚点でもなく、現在進行形の“今”です。
しかし残念ながら、この映画を観ても警官側の非を認めない人たち、この暴力を仕方のない行為だと思う人たちも少なくないと思え、暗澹たる気持ちにさせられます。
たくさんの人に観て考えて欲しい映画ですが、日本での現在の上映館がたった11館だと言うのも今知ってビックリです。
HK

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