Bitdemonz

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのBitdemonzのレビュー・感想・評価

4.5
心臓の弱い双極性障害の老人が、医療用通報装置を誤作動させ、通報を受け駆けつけた警官との認識のすれ違いから最悪の事態に着地するまでの約90分を1シチュエーション(にも関わらず、圧倒的な緊迫感)で描く、実話を元にした作品。無駄なく簡潔で明瞭。

黒人の老人はかつて警官から酷い扱いを受けた事から、執拗に“本人の安否を確認するまでは帰れないという“警官たちの行動に不信感を高め、警官は安否確認のために、本人の姿を確認したいが、一向に姿を見せようとしない老人に対して何かしらの“理由があるのではないか“という疑いを持ち始める。

根底にあるのは、黒人に対する差別意識や警察組織の横暴な振る舞いから起こってしまった問題である点は認めざるを得ないが、注意深く観なければいけないのは、その“認識”のズレを解消する手段に”お互いが歩み寄れなかった”という部分にもあると思った。

現地に到着した警官たちは、あくまでも職務を全うすべく安否確認を行っていたはずだったが、ある種の“マニュアル化”された捜査様式や組織体制が、“自身らの行動を疑う”という行為を抑制していた。

これは組織に属する人間、ひいては大きな社会または世論の「認識」によって行動様式の変化を迫られる多くの現代人が直面するテーマであり、単に“黒人は偏見で差別されて酷い話だ”に留まらず(この事件に関しての結末は確かにその部分も大きいが)、我々自身も盲目的に受け取り従っているルールや常識が他者を苦しめているかもしれない、もしくはそれが間違っていると感じているのに、その言動を封殺されている(或いはそれを余儀なくさせられている)世界に生きていることを自覚させられる内容だった。

「正しさ」の定義は状況によって目まぐるしく変わるが、間違いないのはそれが独善的であってはならない点だ。マニュアルやシステマチックな仕組みは合理的で利便的ではあるが、そうした“人間性の判断力”や“解決の機会”を一方的に奪い去りかねないという事だ。



「それはもう決まっている」ことに対して少し立ち止まって歩み寄る事が出来れば…という事、多過ぎやしませんかね。言う方も言われる方も。それから、分かってるのにままならないことも。

と、思う次第です。
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