Thorta

オッペンハイマーのThortaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
 「原爆の父」オッペンハイマーの半生、マンハッタン計画からその後を描き、クリストファー・ノーランがようやくそのキャリアにおいてアカデミー賞を獲得した。1人の科学者の狂気が世界を終わりへ導くのか?…
 日本人にとってはデリケートなテーマのためここまで公開が遅れてしまったが、まずは日本のIMAXで鑑賞できたことに関係者各位に感謝。

 物語は原爆を作るトリニティ実験とスパイ嫌疑がかけられたオッペンハイマー事件の2軸が交差しながら映される。
 トリニティ実験は非常にテンポの良い会話劇でスパイ任務の作戦会議のような軽快さがあった。私はノーランが原爆を撮ると聞いた時、どんな映像が見れるのかと不謹慎ながら胸高鳴ってしまったのだが、映画もまた原爆実験の成功に向けてボルテージが上がっていく。脚本が映像化されてくように数値が実体化されていく高揚感というものはノーランがクリエイターとして科学者オッペンハイマーに惹かれた理由の1つではないかと思う。
 そして、原爆が完成すると同時にその手から離れてしまう部分も映画監督の性と一致する。特にオッペンハイマーの見えない場所であの爆発が人を殺していく重圧を描いた部分があるだけでも良かったと思う。原爆を悲劇の元凶でもなく、戦争の英雄でもなく、1番フラットな第三者の視点がオッペンハイマーにはあり、その新鮮な語り口も時には必要だ。

 オッペンハイマー事件のパートでは重苦しい法廷劇とカットバックによる映画的な演出が光る。このあたりの知識は乏しく置いていかれそうになりながらも、絶え間ない情報の中でオッペンハイマーの人間性を見出そうと努めたがこれが恐ろしく、何も無かったように見えた。ドラマを作れないノーランの特徴なのか、それとも私が何か見落としていたのか、はたまたオッペンハイマー自体がそのような人間なのか。一回の鑑賞だけでは判断が難しいが私が本作に乗り切れなかった要因だった。

 これまでノーランは5次元空間、夢、時間の逆行など様々な摩訶不思議な世界を見せてくれた。そして、本作もまたそれに並ぶ世界の1つにすぎない。「原子力が生まれた世界」はまさに現代科学がある時代のSFに追いつき追い抜いた瞬間、その世界に私達は生きている。私は警鐘とともに少し浪漫を感じ取ってしまった。
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