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スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのdeenityのレビュー・感想・評価

4.4
今年度のアカデミー賞長編アニメーション部門は本作と『君たちはどう生きるか』の2強だと言われていましたが、結果的に軍配は宮崎駿監督に上がりましたね。
前作の『スパイダーバース』はオスカーを獲っていたので実質的な連覇もあるかと思いましたが、名匠が立ちはだかった形となりました。まあ日本人としては誇らしいことですが。
 
じゃあ実際オスカーを逃したからといって作品自体の出来が悪かったとかなわけでなく、クオリティは前作にも増して素晴らしい映像体験でした。去年はことごとく劇場案件の作品を見逃しているので、本作も結局サブスク頼りなわけですが、それでも素晴らしさはわかります。

前作は2Dと3Dが入り混じり、まるでアメコミの世界に飛び込んだような感覚を覚えたわけですが、本作ではさらにその表現の多様さに広がりを感じました。前作では登場したスパイダーマンが6人いたわけですが、今作ではマルチバースの設定により一気に増加。実写もいれば、LEGOとかもいるし、手書き風のもいれば、芸術的なのもいる。とにかく多種多様。だからビジュアル的な面白さはむしろ拍車がかかっています。
 
加えてストーリー的に面白さもあり、前作ではマイルスが主役だったところ、本作では前作で出会ったグウェンにもスポットが当たっており、情報量は多くはなりますが、その分重層的な作りになっていました。

マイルスに関していえば、自分が異端分子であることを知り、自分が運命を変えてしまったことも知り、そして同時に変えることができないカノンイベントというものもあり、そのため警察署長である父親の死があることも知る。逆らうことのできない運命に対して、知っていたら助けなかったのか、という運命に抗うマイルスと運命を変えてしまうことで他のマルチバースに影響を及ぼすことを懸念するその他すべてのスパイダーマンという構図がパッケージにも見事に表されており、作品のテーマ性だけでなく、作り込みの高さを感じました。

対立する立ち位置にいるのがミゲルであり、彼は以前同じ失敗を繰り返しているからこそカノンイベントの異常を恐れているわけですが、あくまでマイルスはマイルスなわけで、「自分の生き方は自分で決める」なんて月並みなセリフとかも結構響く立ち位置にいましたね。
個人的に印象に残っているのはグウェンに対しての「何にでも最初はあるよ」ですかね。どの世界線でも上手くいかない恋の話と思いきや、作品すべてにかかっているのがさすがでした。

ただやはり情報量は多く、2回目にしてやっと処理できた内容も多く、それに伴って面白さも増していきましたが、1発目でわかりやすいというのも大事ですよね。
何にしても、個人的によくこの作品に『君たちはどう生きるか』が勝てましたね、と失礼ながら思えてしまいます笑
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