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658km、陽子の旅のdeenityのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
3.6
夢破れて堕落しきった生活を送る菊地凛子演じる陽子が絶縁状態にあった父の死をきっかけに故郷に帰ろうとするのだが、その道中サービスエリアで取り残されてしまい、葬儀に間に合わせるためにヒッチハイクをして故郷を目指すという話。

菊地凛子さん久しぶりに見ましたが、めちゃくちゃ失礼ながらだいぶ歳を取られたようで(笑)もちろん役柄もあるのはわかりますが、相変わらずの演技力で陽子を演じるのは菊地凛子さん以外ありえないという感じでした。

まあ正直あらすじ読んだだけだとそんなんあり得んやろ、って思えてしまいますが、実際陽子は周りとの人間関係を断ち、コミュニケーションもまともにとらず、その上直前でスマホが壊れてしまい、と、まあその辺りの展開には説得力はありました。

むしろ説得力ないのは竹原ピストル演じる従兄一家ですね。たとえ子どもが怪我をする緊急事態とはいえ、サービスエリアに置いていきはしないでしょう。そんでもって再会を果たした第一声がそれて。それはいくら何でもちょっと。
もちろんそこに重きを置く映画ではないのですが、個人的にはちょっとノイズになってしまったのも事実ですかね。

しかし陽子がこの旅の道中でしっかりと過去と自分と向き合っていき、少しずつ前進していく姿は良かったですね。
初めはヒッチハイクすらまともにできず、乗せてもらっても話すらまともにできない。そんな状態だった彼女が、時に傷つき、時に人の優しさに触れ、自分の話すらまともにできなかった彼女が突如見知らぬ人に感情を吐露するまでに変化する様。そしてその収束した姿として故郷・青森に辿り着く様。
あの機微の変化は菊地凛子さんにしか表現できなかったと思います。

じんわり心に響く良作でした。
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