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ペナルティループのdeenityのレビュー・感想・評価

ペナルティループ(2024年製作の映画)
4.3
タイトル通り本作もタイムループ物。ただ、これまた独特な設定に興味がわき、劇場に足を運んできました。

主演は若葉竜也さんで、最近『市子』を見たこともあって「またまた謎の女性を好きになってるな、この人」って思ってしまいましたが、絶妙な脱力感ある演技が魅力的ですよね。
しかし今作では自分の彼女を殺されたことに憤慨し、復讐を果たす殺人鬼と化してますので、また違った顔が見られました。
そしてその犯人役をあの伊勢谷友介さんが演じるわけです。いやー、これは何かしらの意図を感じますよね。麻薬やら事故やらで世間を騒がせてしまっていた彼が何度も何度も殺されるという設定は、他意を感じずにはいられませんよね。特に抵抗というか、反撃を見せない辺りも意図がありそうに思えてしまいます。
監督は荒木伸二監督で、鑑賞作品としては本作が初めてです。まあ比較はできませんが、独自の世界観はありましたし、設定的にも『世にも奇妙な物語』っぽさは感じました。

現在公開中の作品なので、これ以降は内容のネタバレを含んでの備忘録です。ご理解ください。

まあタイムループ映画ってのは今まで何本もありましたが、面白かったのは復讐を果たす側だけではなく、復讐される側もループに気づいていくってのが面白かったですね。
最初はコーヒー自販機のカップに薬を仕込んでいたわけですが、その違和感に気づき、「良かったらどうぞ」とか言って他の人に譲り出すとかは斬新ですよね。
基本的にこの手の作品は主人公のみがループに気づいているってのが定石だと思いますが、犯人側が気づいて対策してくるってのは意外性がありました。
そうなってくると究極「そこに行かなきゃいいのに」とか「抵抗も可能だろう」とかも考えてしまいますが、ここを後にわかってくる設定でうまくカバーしていたので、鑑賞後感としても不完全燃焼には思いませんでした。

加えて斬新だったのが、復讐する側とされる側が交流して仲良くなっていくくだりですね。来る日も来る日も復讐の日々に嫌気がさし、もういいやってなってくるわけですが、いくら何でもボーリングは何でやねん、って笑えてしまいました。電光掲示板の死刑囚&執行人は最高でしたね笑
でもそれでも設定上同意した契約違反でやっぱり抜け出せず、殺すのは最低条件みたいになっていて、仲良くなってからの殺しの描写は一気に死が軽くなるというか、基本コメディチックになっていきます。「打つよ、いい?」「うん、いいよー」みたいなコミカルなノリはほのぼのさすらありましたね。

ただ、そうなっていくとループの最後に訪れるもの悲しさもまた生まれてくるわけです。
いつもと同じように「6月6日、月曜日、晴れ、今日の花はアイリス、花言葉は希望」の放送とともに告げられる、これが最後だという勧告。それはつまりループの終わりを表し、本当の死。これまでも殺されるとはいえ、必ず復活することからこその死の軽視だったわけですが、仲を深めただけに何ともいえない感情が胸を締めつけてきました。

本作の鑑賞前は「復讐のもの悲しさ」とか「死刑制度問題」とかいうテーマなのかと予想したりもしていたのですが、テーマ性というよりもジャンル物としての楽しみ方が強い作品という解釈でいい気はします。

被害者遺族の心の傷を癒すためのプログラム。そういう設定なのであれば、そもそもあれは犯人かどうかとか、それこそ抵抗して攻撃してこないプログラムになってるのかもしれないですし、ラストに彼女の話を持ってくるのも納得いきます。

この作品の良いところはそういう肝心なところをぼかして曖昧にしている点ですかね。
犯人のこともそうですし、一番ホッとしたのは彼女のことについてそれっぽい補足説明とかがなかったこと。人によっては気になるかもしれませんが、聞いたら聞いたで興ざめしそうなので朧化表現くらいでよかったと思います。

とか言って意外とメッセージ性のある作品なのかなー。。他に鑑賞された方のレビューが気になります。
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