ごりぞう

オッペンハイマーのごりぞうのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

【3時間の拷問】
 原爆の父であるオッペンハイマーの半生記。どこまでも冷徹な視線で、ノーラン監督は映像にしていく。オープニング「プロメテウスの火」を引用して、そのエネルギーの発生が、人類に大きな影響を与える代償に、彼が終生苦しむことを決定づける。
 科学者の脳内にある原子のイメージは、前半こそ美しさを漂わせているが、現実となった時に、美しくも恐ろしい映像となる。
 ストーリーは、オッペンハイマーが諮問委員会に詰められる中で、彼の人生を掘り起こしていく。つまるところ、ドロドロした個人的事情を、根掘り葉掘りされていく。さながら地獄の鏡の前に立たされるようなものである。
 ノーラン初の“濡れ場”も、後で劇薬として効いてくる。ロマンチックとは言えないシーンだった。
 青年期において、「実験が苦手だが、理論では素晴らしい才能がある」という伏線があり、理論は素晴らしいが、実験結果を観ないという面が示唆される。
 中盤は、原爆実験までの壮大なミッションを描くのだが、その中でも内外の科学者同士の競争や、政治的な人間関係に巻き込まれていく。特に、科学者としてのライバル意識と「ナチスより先に」というユダヤ人としての危機感が、原爆完成という目標に向かわせる。彼は世界の科学者を観るうちに「自分は天才ではない」と実感し、秀才としての努力を、他の科学者を巻き込んで達成するのだ。
 後半、戦争が終結し冷戦期になると、彼は自分の実績を後悔し核抑止に向けるが、逆に「共産主義」の疑いを持たれ、窮地に立たされる。信頼関係にあったはずの人が裏切り、ライバルだと思っていた人が援助する。人生の審判における、人間関係の結果を観ることになる。

 結末は、疑いは晴れて(国家機密にアクセスする権利は奪われるが)科学者としての賞賛は受ける。

 しかしながら、かつてのアインシュタインの言葉が、彼を断罪し続けるのだ。
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