浅井拓馬TakumaAsai

オッペンハイマーの浅井拓馬TakumaAsaiのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

指先に少し深い怪我を負う。食事中うっかり舌を結構強く噛んでしまう。するとそこから、なんてことはないはずの日常動作の中に見過ごせないノイズが生まれ、今日1日を過ごすエネルギーはみるみるうちに奪われていく。
でも、その渦中では今後は気をつけよ〜とか思うけど、そんなことは忘れてしまうのだ。また不意に痛みを感じるその時まで。

本作は徹頭徹尾そんな痛みについての景色を積み重ねていく。
自分への痛み、人々の痛み、我々の痛み、国家の痛み、誰かへの痛み、誰からへの痛み、誰からの痛み、誰かの痛み。

様々な痛みの中ででもしかしそれを忘れることでも明日を生きてゆける生命の、でも、忘れるってことは失くなるってことではない、失くすことができないからこそ、厄介でもあるものなのだ。
だから、この世界との付き合い方を生命はそれぞれに刺激し合いながら模索せざるを得ない。

そういうフィーリングをこの題材で誰しもの普遍に触れ得るものとして作り上げられてるわけで、そこに宿る大衆性と作家性のバランスも含め、「遅いメディア」となった映画だからこそできる紛うことなき傑作。構造的に様々な功罪や陳腐を含めて提出されてる。

見終えてみると日本公開がこのタイミングだったのも適していたように思う。配給のビターズ・エンドへ感謝。