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オッペンハイマーのwhiskeyのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
ようやく観た。
なぜ原爆は開発され、なぜ広島・長崎に落とされたのか。扱っているテーマがテーマだけに「面白かった」とは言えないが、観ておくべき映画だとは思った。
以下、感想をランダムに記す。(映画をベースにした感想なので、史実の検証が足りない点は容赦ください)

●「我々が長年学んできた物理学の成果を『原子爆弾』に昇華させて本当によいのか?」……オッペンハイマーが友人の科学者にそう問われるシーンが印象的だ。原爆開発に対するオッペンハイマー自身の当初のモチベーションは、「大量殺戮兵器をナチスにつくらせるわけにはいかない」という危機感だった。オッペンハイマーはユダヤ系で、ナチスが覇権を握ることを本当に恐れていたようだ。少なくともナチスの前に自分たちが持たなければと考えたのかもしれない。

●劇中で、オッペンハイマーがニューメキシコ州のロスアラモスで原爆開発を始めるシーンが描かれる。単に有能な科学者を集めるだけではダメで、最大限に能力を発揮させるために彼らが家族と一緒に暮らせる町をつくる必要があるとして、彼の主導で同地に広大な開発都市をつくる。教会もバーもつくる。幸か不幸か、彼は科学者というだけでなく、プロジェクトマネジメント能力というか、そういう素養や才能を持っていたのだろう。

●最終的にこのプロセスすべてがヒロシマ・ナガサキの悲劇につながっているのはわかっているが、科学者や技師たちが核実験に取り組んでいる姿は、あくまで科学的成果の追究で、敵国の人間を一人でも多く殺したいというダークな欲求があったようには感じない。ここが観ていて不思議で、なおかつ危険な部分であるという気がした。原爆開発を求める力と、それを抑止しにくい要素が幾重にも重なっていて、原爆は完成に至ったのだろう(と、文字に書くと当たり前の話に見えるが)。

●もちろん明らかな問題はいくつもある。気になったのは、開発者が原爆がもたらす悲劇を十分想定できていないこと。本作では、原爆の放射能のもたらす影響について科学者が事前に議論しているシーンは(おそらく)なかった。もし原爆の爆発力だけでなく、放射能による二次的被害の悲惨さまでを想定していなかったとすれば重大な過ちで、科学者たちの責任は重い。

●重要なのは「使用」ではなく「所有」であり、持っているだけで戦争の抑止力になるような強力な大量破壊兵器を開発することを、科学者たちは目標にしていたのかもしれない。しかしそんな甘い話ではない。米国政府は初めから使用を想定しており、科学者たちに原爆を開発させたらその使用には関与させず、お払い箱にするつもりだったようだ。
アラン・チューリングによるエニグマ暗号解読を扱った映画『イミテーション・ゲーム』を観ると、暗号解読技術を使ってどう終戦に導くか、そのプロセスにチューリング自身が参画していたらしい。一方のオッペンハイマーは、原爆投下の具体案に関与できていない。開発者が「使用」に責任を負えなかったこと、あるいはあえて「開発」と「使用」を分けたことも、結果をより深刻化させた原因なのだろうと思った。

●原爆投下後、核開発の抑制を進言するオッペンハイマーに対し、トルーマン大統領が「原爆を落とした責任を負うのは俺だ。お前ではない」みたいなことを言って、側近に「あんな泣き虫、二度と連れてくるな」と告げるシーンがある。トルーマンは原爆投下を決めた張本人で、彼が一番の悪だと言えばそれまでだが、前述のように幾重にも要因が重なって原爆が投下されているので、この辺りの文脈をどう理解すればいいのかまだ整理できていない。もう少し考えたい。

●あと、観た人の多くが「難解だった」と言っているのは、内容自体の難しさというより、展開のわかりにくさが大きいと思う。オッペンハイマーは戦後「赤狩り」の対象となり、公職追放される。その際、長時間に及ぶ過酷な尋問を受けており、この映画では、オッペンハイマーが尋問に答えるシーンと重ね合わせるようにして、原爆開発のプロセスが描かれている。公職追放の背景には冷戦下における米国内の政争があったらしく、話がややこしい上に時系列がわかりにくい。尋問シーンもだいぶ長いので、緊張感のある映画なのに何度かうとうとしてしまった。そのせいで見落としている箇所もあると思うので、ブルーレイ化などされたら、もう少し丁寧に見直したいと思う。

●オッペンハイマーはかつて共産党に所属していたことがあり、冷戦が激化する中、「共産圏に協力した」という濡れ衣で公職追放されたらしい。映画ではその尋問が異様に長いが、『なぜ君は大量殺戮兵器を開発したのか?』と倫理的責任を問われる場面は一度もない。この辺りにも、考えるべきテーマがある気がする。が考え尽くせてない。

まとまりがつかないレビューで申し訳ありません。今夜はこんなところで。
また思いついたら追記します。
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