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イニシェリン島の精霊のRYOBEERのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

パードリックの表情がただただ切ない。
ずっと顔で泣いてるコリン。
あの下がり眉がキャスティングの決定打であったに違いない。

あとあの役にバリー・コーガンはさぁ…どこかで妹ちゃんをレイプしよるんちゃうかとドキドキ。勝手にミスリードされてましたよ。ごめんなさい。

コルムは以前の彼ではなく、一見むちゃくちゃな変貌に思える。が、悪人になった訳ではない。
あんな態度をとったパードリックにさえ、他者としては尊重していることが節々に見てとれる。
だからこそ、「自分のこれからの人生に意義をもたらさないあなたとは、もう友人として付き合わない」という意志の固さが輪をかけて伝わり、見ているこちらはとても辛い。

例えば警官に殴られた後のシークエンスなど、あんなことをされればそりゃあ(あれ?もしかしてワンチャンある?)とか思いたくもなる。
優しくて残酷である。

そんな掛け違えの人間関係のいざこざは周りに波及し、巻き込まれた他者がその命まで脅かされる予感は、近付くなと言われたかつての友の家の扉を叩く音と、報復に切った指を投げつける音が呼応し、それらがすぐそばで聞こえる死の砲弾の音へとオーバーラップするように、現実となる。

ドミニクは、こちらの視点で見れば明らかに自死に思えるが、パードリックも父親もその可能性すら頭によぎらないだろう。

ある意味では、コルムに救われたであろう人物もひとりいるが。

少し話は逸れるが、同じくマーティン・マクドナーが手掛けた『セブン・サイコパス』という劇作品の中で、反戦運動の為に焼身自殺を試みる、ある僧侶の話が出てくる。
「そんな事をしても何も変わらない」と周りに説得されても、「変わるかも」と答え、ついにはそれを実行したというエピソードを、エンドロールが流れる中思い出した。

パードリックがコルムの家を放火した理由には、もちろん大切なロバを失った恨みがあるのだろう。
しかしそれとは別に、劇的でなくとも何かが【変わるかも】と、一抹の希望を込めていたように思えてならない。

最後の会話でコルムが示したのはやはり(友人関係の)拒絶で、パードリックはついに受容で応えた、ように私は解釈した。

コルムがこの先指を切る事はおそらくないだろう。
相手に自分のエゴを押し付けないという意味では、パードリックの、また二人の関係においての成長とも取れるが、これを希望と言うにはあまりにもやるせない。
本当にやるせねぇ。
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