summer

イニシェリン島の精霊のsummerのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

見ているだけでこっちまで息がし辛い、絶望感漂う映画だった。普段メッセージが分かりやすい映画とか、娯楽映画を主に見てるから、哲学的な映画はよくわかんなかったな〜て思うことが多いけど、この作品は割と好きだった。

人口の少ないコミュニティは、イニシェリン島のようになるものなのかな。よく田舎の特徴として、情報が筒抜けでプライバシーがないという悪い面と、みんなが家族のようで助け合えるという良い面がよく挙げられるけど、この映画はその悪い面を全面的に出してた感じ。

パードリックはただ学がない、本当にあの島に生まれてしまったが故の言動な気がする。生まれてからずっと他を知らずにあの島で暮らしてたら彼のようになるんじゃないかな。島がいかに退屈で何にもないところなのかを知ってはいるけど、実感していないというか。退屈なことに疑問すら抱かない。「孤独を感じない?」ていうシボーンの質問が、ちっともわからない様子だった。

それに引き換え妹のシボーンは、頭の良さゆえ物事がわかるから、あの島の邪悪さがより見えるんじゃないかな。

コルムは、インテリぶった何者かになりたい、何者にもなれない人に見えた。彼の中で考えた結果、絶望感はパードリックのせいと結論づけたからこその行動だった気がする。自分の生活からパードリックを削って、創造的な時間を過ごせば、焦燥感や、絶望感が和らぐと思ったのかも。ただ、「生きるとは死ぬまでの暇つぶし」としか感じられない時点で、彼もあの島の中の1人に過ぎない証拠だし、パードリックを遠ざけることに意地になりすぎて、本来の目的から遠ざかってる気がして滑稽にすら見えた。実際に楽器を弾けなくなってしまったわけだし…。何度もシボーンに、「あなたにならわかるはず」て言ってたけど、シボーンも否定してた通り、全然違う。シボーンはまだ諦めていないから、行き遅れと言われれば当然傷つくし、実際に島から出た。

ドミニクはバカなのか?あまりにもピュアすぎるあの島の唯一の良心じゃない?障がいに詳しくないから軽々しくは言えないんだけど、ドミニクはたぶん障がいを持っている人物だったと思う。障がい者だから配慮するべき、とかそういうことじゃなくて、自分とは違う人のことを見下したり、バカと一言で片付けたりして、彼自身を理解しようともしない島民たちは本当に思慮浅いし、攻撃的だった。

人との距離感をはかれない発言も多々あったけど、純粋だからこそだった気がするなぁ。

気になったのが、あんな暴言を吐くような神父がいる教会があって良いのか?あれ笑うところ?あと懺悔するとき、顔が見えないようにしてあるものだと思ってたけど、違うのかな。それともあれもその島特有のもの?

果たして何も知らないままどんなドラマもなく、面白い話といえば馬の糞しか話題にあがらないような、パードリックと、今までの価値観や生活に抗うには歳をとりすぎて、悲しくもそこから抜け出せないけど、何かをしようとしているコルムはどっちが幸せなのかなぁ。
summer

summer