Habby中野

イニシェリン島の精霊のHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

この”巨大な”物語の首尾を担った空撮─舞台である離島を舐めるような空撮は神の目線ではやはりなく、科学技術に乗っかった二本足の飛躍、或いは偽造天使の上昇か。
彼岸の銃撃音、此岸の諍い。歴史的であり政治的であり集団的”であろう”地獄のような世界の対岸で起きているのは、もはや矮小でさえないくらいにトレースされた、真剣で恐ろしく思考的でまた馬鹿馬鹿しくもある一人と一人の”戦争”だ。
一方は自己の尊厳を守るために友を切り離し─指まで切り離す。一方はまた、これも自己の尊厳のために優しさを演じる。どちらも他者のことは言わず、芸術への心酔と友情の陶酔へと言い換える、自己犠牲と日常への執着を。
後世に残るのは音楽か、優しさか。仲違い、いや憎しみ合いは血を流し、火を燃やし、命を尊び穏やかに続く。対岸では銃撃音が止んでいる。
人間だけの世界には神はいない。動物たちはこちらを振り返り、見つめ、羽の無い天使は欺瞞の上昇を繰り返す。
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