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ラーゲリより愛を込めてのmityのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
4.0
予告からして、泣くことは分かっていた。でも、何の涙かまでは考えていなかったから、山本幡男さんがどんな生涯を辿ったのかはとても興味深く、そしてその人間性にとても驚かされた。

「これは戦後の混乱の最中で起きた不幸な出来事にすぎません。」
そう言って穏やかな表情をみせる山本。決してダモイ(帰国)を諦めず、周囲を鼓舞したその姿に、山本が其処に居たことそれ自体が、彼らにとっての希望のようだと思った。松田に相沢に、多くの者たちが山本に救われる中、とりわけ原にとっては大きかったように思う。過酷な環境下で取ってしまった行動。表面がどうであれ、心の底では後悔や罪の意識が渦巻いていたであろうその心境のまま生き続けるのは、きっとしんどすぎる。その固く閉ざした心をも溶かしてくれた山本の存在。この人の為に、との思いが湧くのも想像に難くない。

時折笑みさえみせ、常に穏やかに前を向き続けた山本が、ほんの僅かみせた翳り。やっとダモイ出来ると歓喜した後の25年の強制労働の言い渡し、その訳の分からない理不尽を被った理由···それを知った時の山本の表情、行動に、私は少し安堵した。彼もまた同じなのだと。

一度戦争が起きれば、それを境に、その後はずっと戦後。“もはや戦後ではない”の新聞見出しに違和感しか感じないほどの過酷なシベリアでの抑留生活は、不幸な出来事なんかで納得出来るものでは到底なかったと思う。想像を絶する飢えと寒さの中、それでも人間としての尊厳を失うことなく希望を信じ続けた山本旗男さん。
「ただ生きるだけじゃダメなんだ。山本さんのように生きるんだ。」それが如何に尊く凄いことか。その言葉の意味を、映画は教えてくれた。


#131_2022
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