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ゴヤの名画と優しい泥棒のtaruponのレビュー・感想・評価

ゴヤの名画と優しい泥棒(2020年製作の映画)
4.4
なんてイギリス的で、クスっとしてしまう笑いと、愛おしさにあふれた作品なんだろう。
1961年、ロンドンのナショナルギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた事件に基づく実話。
ケンプトン・バントンという男が、高齢者のBBC受信料をただにさせようと、いろいろ活動を行っていて、その一つの手段として名画を盗み、それを戻すまでの顛末を描いた話。
ジム・ブロードベントが演じる主人公のケンプトン・パントン、自分自身の信念とこだわりがあって、その主義主張を織り込んだ戯曲を書いてみたりキャンペーンを張ったり、労働者階級で日々働く中にも、自分の主義主張が顔を出して、ある意味めんどくさいやつ、かといって聖人君主なわけでは全くなくせこさ、ずるさもある。そして、そんな夫にうんざりもし文句を言い言いしつつも、ケンプトンの持つ優しさに、彼を許容して過ごす妻がヘレン・ミレン。
この2人に息子たちを加えた家族の掛け合いが何とも面白い。
そして、それぞれの言葉、態度の端々に地方都市の典型的な労働者階級像が見える。
見どころは、後半の法廷場面。ケンプトンが問われる以上のことも含め饒舌に語る、自分の生い立ちや考え方。そしてその言葉を誘導する弁護士(マシュー・グード)の戦略も素晴らしい。
もちろん、盗みをしたという事実はあるものの、それはどういう意図のもとに行われて、それを行ったケンプトンの背景にはどういうことがあるのか、「隣人がちょっと芝刈り機を借りて長くなってしまったのと同じ」というほぼ詭弁でしかない論理に、どれだけ説得力を持たせられるのかどんどんその話に引き込まれていく。

そして、その裏で明らかになる真実、そして長女の死で夫婦間で凍り付いていた部分の和解・・・・
後半は、笑いたくなる気持ち、涙(抑え気味のヘレン・ミレンの演技がほんとに良い!)、そしてあぁ、裏はこういうことだよねというどんでん返しを楽しむ気持ちといろいろに忙しい。

ちょうど今、同じ時代を扱っているドラマ「コール・ザ・ミッドワイフ」を見ているので、あちらはロンドンの下町の労働者階級の人々の話だが、人々の考え方などに共通するような部分もあり興味深い。

なお、これは、ロジャー・ミシェル監督の遺作。
私は、ノッティングヒルの恋人、ジェーンオースティンの説得を見ました。両方とも好きな作品。
ご冥福をお祈りします。
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