りっくさんの映画レビュー・感想・評価 - 5ページ目

ザ・ホエール(2022年製作の映画)

3.8

本作はダーレン・アロノフスキー監督の過去作『レスラー』と同様の構造を持つ。離婚し孤独となった男は、過去の罪を背負うかのように自らの肉体を罰し、人生の終焉を自ら引き寄せようとする。そして限られた残りの人>>続きを読む

ヴィレッジ(2023年製作の映画)

3.5

霧深い山村の山腹にそびえ立ち、村を見下ろす巨大なごみ処理施設。24時間365日稼働している施設の煙突からは、絶え間なく煙が排出されている。

そこには美しい日本の原風景などもはや存在せず、ひたすら異様
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ちひろさん(2023年製作の映画)

4.0

本作はまさに「フード映画」の理想的な形だろう。ちひろさんが働く弁当屋の弁当をはじめ、レンチンしたナポリタン、子供ながらに作ったのりまき、それが継承されたような握り飯、子供が自慢した母親のやきそば、そし>>続きを読む

ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023年製作の映画)

3.2

物語の入れ子構造のような短編は、基本的には複数の語り部がカメラに語りかける形で進んでいく。フィックスとゆっくりとパンを繰り返すカメラの動きと、駒のようなキャラクターたちや平坦な背景を見つめていると、ど>>続きを読む

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022年製作の映画)

3.6

離婚寸前の夫と、ガールフレンドを連れてきた思春期の娘と、ランドリーの経営と納税で人生堂々巡りの妻。マルチバースという壮大なSF設定の中で、例えば家族で世界を救うといった大げさな大義名分を果たすといった>>続きを読む

バッドガイズ(2022年製作の映画)

3.7

冒頭の『パルプフィクション』オマージュの長廻しからはじまり、『ルパン三世』や『オーシャンズ』シリーズなど、ケイパーものの影響をモロに受けつつ、軽快なテンポと魅力的なキャラクターのノリで爆進する快作。>>続きを読む

バービー(2023年製作の映画)

4.0

冒頭の『2001年宇宙の旅』の力の入りすぎたパロディで度肝を抜かれ爆笑させられるが、それが出オチではなく、きちんと意味を持ったものであることが素晴らしい。HAL9000のごとく、ケンは知恵を獲得し反乱>>続きを読む

To Leslie トゥ・レスリー(2022年製作の映画)

4.5

賞レースの前哨戦でほとんど名前があがらなかったアンドレア・ライズボローが突如アカデミー主演女優賞にノミネートされたことに賛否両論あったが、本作の彼女を見てこの演技が見過ごされなくて心底良かったと思った>>続きを読む

The Son/息子(2022年製作の映画)

4.5

前作『ファーザー』を遥かに凌駕する家族ドラマの傑作。思春期の息子と彼と同居する元妻、そして現在の妻と幼い娘、さらには仕事と家庭との狭間で、どのように父親として振る舞い、声をかけ、寄り添うことができるの>>続きを読む

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)

4.2

あのスピルバーグが、映画について、そして自らの幼少期についての映画を作る。そう聞くと、感動と興奮のエンターテイメントを常に贈ってくれる巨匠の映画愛が炸裂するかと思いきや、そんな一筋縄ではない。

映画
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雑魚どもよ、大志を抱け!(2023年製作の映画)

3.2

冒頭からある一家の様子が映し出されるが、兄は塾に行くなんて言ってないと親に歯向かい、妹はうるさいと注意されながらもピアノを引き続け、母は息子の声に耳を貸さず、父は目の前の家族の様子を気にもせず晩飯をせ>>続きを読む

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年製作の映画)

3.6

ルーヴルへ行くというタイトル通り、日本映画史上2作品目のルーヴル美術館で撮影された本作だが、決して観光映画ではない。極端なローアングルやシャープな構図で切り取られるルーヴルからは、常に不穏さが漂う。>>続きを読む

サムライ(1967年製作の映画)

4.2

アンミカが白は二百色あんねんと発言したが、映画における「黒」はそのくらい存在し、本作における「黒」は、映画で一番かっこよく見える「黒」だと勝手に思う。スタイリッシュで硬質な画面の中で、常に孤独な魂が彷>>続きを読む

渇水(2023年製作の映画)

2.8

「水」を全編のテーマに据えた本作は、だからこそ、それが柵となって予想の範疇を超えず、そのモチーフが巧く機能しているようにも思えない。停水をめぐっての公務員の葛藤と人間性の回復も粗く、各々の物語もこぼれ>>続きを読む

水は海に向かって流れる(2023年製作の映画)

2.5

広瀬すずの表情の切り取り方で何とか持ちこたえているものの、漫画的な展開や地に足がついていないキャラクター造形、時折挟み込まれる全体のバランスを崩すコメディ的な要素、水や風といった自然現象をステレオタイ>>続きを読む

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)

3.6

世の中に蔓延るヒエラルキー、それは収入や人種や性別だったりする。その価値観に基づいて人を見下して蔑んだりする鼻持ちならない輩たちを、豪華客船にぶち込み、荒波に揺らされることで阿鼻叫喚の世界に引きずり降>>続きを読む

静かなる叫び(2009年製作の映画)

4.2

大学構内での銃乱射事件をベースに、例えば学園ものにつきものなスクールカースト的な分かりやすさは排除され、事件の加害者や生き残ってしまった者の背景やこの先の人生を説明することなく、台所に積み重ねられた洗>>続きを読む

対峙(2021年製作の映画)

4.3

本作は二組の夫婦が何故対話することになるのか徐々に明らかになる構成なのだが、序盤から対話に至るまでの部屋のセッテイングのピリピリ感からして物凄い。

それでいて、例えばどちらの席からティッシュが見える
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ソフト/クワイエット(2022年製作の映画)

3.3

ヘイトクライムの暴走による集団暴行や衝動殺人の過程を長回しを駆使して捉えることで、ある共通の主義主張を持っているように見える個々が集団になることで、気が大きくなり、調子に乗るようになり、結果取り返しの>>続きを読む

茶飲友達(2022年製作の映画)

4.1

超高齢化社会に足を突っ込んだ日本。そこでは肉親も含めて人間と人間の希薄な関係性も相まって、老老介護のような歪な構造が生まれているが、それが性風俗の世界でも繰り広げられる。その光景は脳がバグってしまうよ>>続きを読む

悪魔を見た(2010年製作の映画)

4.1

シンプルな物語でありながら長尺ではあるが、奥行きや暗闇の使い方が抜群に上手い計算され尽くされたショットの連なりと流麗なカメラワーク、手数と引き出しの多いアクション、時折挟まれるふとしたユーモア、そして>>続きを読む

赤と白とロイヤルブルー(2023年製作の映画)

3.6

王室と政界のトップの息子同士による恋愛劇は、公人と私人の狭間で葛藤しつつ、ふたりの大胆かつチャーミングなやりとりがとても魅力的。また著名人に対する報道やプライバシーの問題にも触れられており、ある種のフ>>続きを読む

モリコーネ 映画が恋した音楽家(2021年製作の映画)

4.5

モリコーネ本人と、彼と関わってきた人物や影響を受けた人物たちの豊富なインタビューによって、各作品の誕生秘話のようなものを羅列するだけでなく、モリコーネ自身の映画音楽史と各作品の位置づけ、監督と音楽家と>>続きを読む

生きる LIVING(2022年製作の映画)

4.2

冒頭の駅のホームから役所の各課までの通勤風景で印象的な俯瞰ショットが挿入される。同じような格好をした紳士が、同じようなルーティーンで、システマティックに動くさま。人の波になすがままに飲み込まれ、思考や>>続きを読む

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)

2.5

クリードの過去=幼馴染であるデイミアンとの腐れ縁の決着という個人的なトピックを解決することだけが注視された本作は、あまりにも個人的な物語を特に何の驚きもなく展開していくことによって、世間や社会との関係>>続きを読む

そして僕は途方に暮れる(2022年製作の映画)

4.2

本作はクズ男の悲喜劇を追っているが、どうも違和感が拭えない。藤ヶ谷太輔演じる男のキャラクターの言動はナイーブかつ共感能力や責任感がない現代の若者をカリカチュアしすぎて現実感が薄く、やけに仰々しくもり立>>続きを読む

ウーマン・トーキング 私たちの選択(2022年製作の映画)

4.2

本作はまるで舞台劇のような会話の応酬がワンシチュエーションで続いていく。そこから外の世界は見えるものの、極端にトーンが抑えられ、彼女たちの服装や美術など限られた情報では、一体この物語がいつの時代なのか>>続きを読む

ノースマン 導かれし復讐者(2022年製作の映画)

4.0

ロバート・エガースの緻密に計算された狂気的な画面設計と、そこに刻み込まれる人間というよりも獣に近い原初的な荒々しい存在感に終始目を奪われる。それでいて、父と息子の王位継承や親族たちのいざこざ、血で血を>>続きを読む

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022年製作の映画)

4.2

物語構造は非常にシンプルであり、被害者から証言を集めて事実を公表し、加害者を告発することがゴールに設定されているが、そこに及ぶまでの過程で誰一人として浮足立たず、一貫して毅然とした態度を貫いてみせる作>>続きを読む

銀平町シネマブルース(2022年製作の映画)

4.1

斜陽産業となっているミニシアターを舞台にした昭和人情悲喜劇テイストではあるが、コロナ禍でのSavetheCinema運動などを経て観ると、映画館というユートピアをせめて映画の中だけでも作り上げようとす>>続きを読む

マッシブ・タレント(2022年製作の映画)

3.5

ニコラス・ケイジという俳優の栄枯盛衰のキャリア、俳優としての力量、そんな俳優を追いかける映画ファン。彼自身や彼を見る世間の目を解体して物語に組み込み、自虐と尊敬とエールで包みこんだ、微笑ましく温かな映>>続きを読む