中島晋作さんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

新生ロシア1991(2015年製作の映画)

3.9

レニングラードに集まった8万人もの群衆。これが、きわめて20世紀的な、捨て置かれた風景のように見えてしまう。流行病のせいではないが、大昔の出来事のようで、90年代なのが信じがたい。
幸福を追い求めるう
>>続きを読む

こどもが映画をつくるとき(2021年製作の映画)

3.8

被写体に寄り添うことはせず、常に一定の距離が保たれる。輪に入れない子供、勝手に遊び始める子供。映画を撮ることは、常に現実との格闘になる。
井口奈己の映画をほんとうに久しぶりに見た。ニシノユキヒコからも
>>続きを読む

ノースマン 導かれし復讐者(2022年製作の映画)

2.8

男性の暴力性を統制する女性たち。オーディンの鴉に監視されながら、男は野獣化して遠吠えする。
デヴィッド・ロウリーによる究極のファンタジー映画の記憶も新しいため、やや印象に残りづらい。音響の特異性に映像
>>続きを読む

ブラックアダム(2022年製作の映画)

3.8

スマパンが流れたときの時代錯誤感に不安になるも、中盤からは盛り上がる。ピアース・ブロスナンが良い。
映画でロックが流れるときに襲われる残念な感覚はいつからか、もう忘れた。古いとは言わないが。使い方の問
>>続きを読む

ヨーヨー(1965年製作の映画)

3.6

フェリーニ、マルクス兄弟、キートン、チャップリン、といった先人たちに敬意を捧げ、自らの喜劇を創り出す。タバコの火がなかなかつかない。

ピートと秘密の友達(2016年製作の映画)

4.6

赤い風船が映画に出ると(映画史的文脈から)緊張感が高まる。風船のある病室から飛び出してすぐにアクション映画と化す豪快さ。老いて老人になった人間は子供へと還っていくことがよくわかる。

無垢の瞳(2022年製作の映画)

4.5

子供たちは無垢であるがゆえに、大人たちに牙を剥く。画面は全体にくすんだ色彩だが、ケーキの赤だけが鮮やかな原色として演出されている。それだけで、戦時下という緊迫した時代におけるケーキの特別さ、ありがたみ>>続きを読む

REVOLUTION+1(2022年製作の映画)

4.7

このさき一生、派遣労働者として生きる。金はなかった。悲惨で無用な人生。最低な世の中と最低な自分。自分自身の奴隷であることから解放されるために、安倍晋三を殺す。
女性に無条件で聖性を見出すことの時代錯誤
>>続きを読む

ジャッカス FOREVER(2022年製作の映画)

5.0

バカでいることが過剰になりすぎると、笑いを通り越して顔が引きつってくる。そういう次元にいってしまったら、もう後戻りはできないと思う。これ以上やれば大怪我か、あるいは、という嫌な予感は見事に的中する。次>>続きを読む

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)

3.4

ボールの滑らかな動きに目を奪われる。ショットが持続するため、選手たちの複雑な動き、プレスやフェイントの効果もわかりやすい。そのような優れた点も、演出の凡庸さに殺されているが。

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)

3.0

どんなステレオタイプも、実直に演出すればそこから逸脱する瞬間はある。が、やはり瞬間にとどまっている。ステレオタイプを喰い潰すような残酷さを、この監督は持ち合わせていないのか。商業映画だから、ということ>>続きを読む

はだかのゆめ(2022年製作の映画)

2.8

夜の暗闇に浮かぶ懐中電灯の光、川に燈る炎が寂しく映る。誰が生者で誰が死者なのか。会話がまったく噛み合わない。実は誰も会話などしてなく、ただ独り言を呟いていただけなのかもしれない。

理大囲城(2020年製作の映画)

4.5

市民と警察が互いに音楽をぶつけ合う。閉鎖空間での内部分裂。階段を降りれば自首、登れば消耗戦、どちかを選ぶのか。それとも死ぬか。匿名の監督たち。映像を武器として使う。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター(2022年製作の映画)

4.1

後半は『アビス』と『タイタニック』化。『ホビット』をHFRで見たときの不気味な違和感をまるで感じなかった。おそらく、高フレームレートとそうでない箇所を明確に区別し、それが成功している。高いフレームレー>>続きを読む

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)

5.0

ワンショットが長い。夜の街灯、電車の光、高架橋が頻繁に映り、ケイコの悲壮な孤独が際立つ。最後の、あの女性の職業設定も、影になって消えていくことも、ただひたすら寂しさしか感じなかった。心がバラバラになる>>続きを読む

にわのすなば GARDEN SANDBOX(2022年製作の映画)

2.9

浮遊しているような台詞回し。フラつく身体と彷徨の過程で、若者の寄る辺ない生活がみえてくる。そのような力の抜けたシークエンスとは対照的に、俳優の踊りが奇妙に印象づけられる。

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)

3.0

男なんてみんな同じ、といった言説を映像化すること。男は醜い、汚い、臭い、という究極のミサンドリー映画として見れば面白い。前作で片っ端から女を殺しまくった反動とも受け取れる。声の反響で音楽が生成されるト>>続きを読む

夜、鳥たちが啼く(2022年製作の映画)

1.9

佐藤泰志の小説世界における、一瞬一瞬の地獄を噛みしめるような、あの底の知れない寂しさのようなものを、この映画に見出すことはできなかった。この監督は、もう少し明るい題材の方が合っていると思う。大人が子供>>続きを読む

やまぶき(2022年製作の映画)

1.7

サイレント・スタンディングという抵抗のあり方。自分のことを考えろと言う男性、もとから自分でなく、遠くの他人を思っている女性。

グリーン・ナイト(2021年製作の映画)

5.0

円環のイメージで始まって、そのまま円卓へ。狂気的な照明の精度。ややフェルメール的。崇高な風景。醜悪さもある。裏切り、挫折、敗北を知り、恐怖に屈するとき、腐敗がまとわりつき、滅びの未来が見える。
絵のモ
>>続きを読む

あなたの微笑み(2022年製作の映画)

4.6

栃木には何もない。でも栃木には世界のワタナベがいる。ワタナベは脚本が書けない。きっと良いものを書こうとしている。書けないうちは巨匠でいられる。書いてしまったら最後、自分の限界が知れ渡ってしまう。何もな>>続きを読む

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー(2022年製作の映画)

1.0

黒い肉体に青、紫といった色を照射する。全体が追悼のムードで満ちており、アクションは前景化しない。ビーチで故人を偲ぶのは『SKY MISSION』を彷彿とさせる。確かに、海底に沈む都市の青く、暗い輝きの>>続きを読む

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)

2.0

日本各地の地方都市をまわりながら、うまい飯を食べ、優しい人の心に触れるという構成によって、映画は正しく観光/ご当地映画として機能している。犠牲者、被害者としての日本という物語を再生産してしまうことの危>>続きを読む

いとこ同志(1959年製作の映画)

3.6

バルザックを店主の好意で万引きする。怠けた者は試験に受かり、勤勉な者が落ちる。またしても地方と都市の対比。

RRR(2022年製作の映画)

4.4

ドレスアップをはじめとした変身、転生を劇的に演出するのは過去作同様だが、それが監督の作家性なのか、インドの地政学的な影響ゆえなのかは知らない。火属性は撃つ、射る、といった攻撃系、水属性は治癒、移動の補>>続きを読む

たまねこ、たまびと(2022年製作の映画)

4.2

捨てられた人間が捨てられた猫の世話をする。見捨てられた存在にカメラを向ける。蟹や干潟もそうだった。ホームレス、捨て猫、といった記号ではなく、生活が見えてくる。いいことが何もなく死んでいったものの墓に地>>続きを読む

美しきセルジュ(1957年製作の映画)

3.8

田舎生活者が都市生活者を見て自己嫌悪を募らせる。妻を罵倒し、酒に溺れ、手を差し伸べてくれた人間を裏切る。どうしてこんな人生になったのか、本人すら理解できない。

パシフィクション(2022年製作の映画)

3.4

黄昏時の風景。ダンスホールのライティングや人物の緩慢な動きはファスビンダーの『ケレル』を思い出させる。退屈さとどう戯れるか。

この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない(2022年製作の映画)

3.2

コロナ禍におけるポルトガル、リスボンの記録。ステイホームなら家には人がいるはずだが、室内に人影はない。外にも中にも誰もいない。無人の街で歌って踊り、都市を祝福する。

スパルタ(2022年製作の映画)

4.0

平面的な構図、重くのしかかる曇り空などは変わらず。うさぎを殺すときには『サファリ』からの連続性を感じる。見てはいけない何かを見ている感覚。陰気に満ちている。

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版(1994年製作の映画)

4.0

死と苦しみを描き続けてきたエドワード・ヤンが、その作風自体を対象化、あるいは戯画化したような印象をもつ。異色作、とも言い切れない。寒々しい部屋の窓辺で、亡霊のように人物の影が浮かび上がる、作家の刻印の>>続きを読む

鬼火(2022年製作の映画)

4.0

政治性が強い言葉は英語で、それ以外はポルトガル語が用いられる。「木は友達」。木は男根であり、場所と紐づけられる。男性の筋肉質な肉体に彫刻的な美を見出し、黒と白は溶け合う。

バビ・ヤール(2021年製作の映画)

4.3

死体を箒で掃く、首を吊ったときに全身が痙攣する、といった人間身体の動き。写真が連続するときには、風の吹き抜ける音をはじめ、音響に細心の注意が払われている。金品や衣服が地面に落ちている。人間がいたことの>>続きを読む

アテナ(2022年製作の映画)

2.0

長回しのなか、カメラは常に被写体に張り付く。『サウルの息子』以降定着したSNS以後を感じさせる演出手法。ダークツーリズム的。この撮り方だと、人物とカメラの距離が近すぎるために、映画に空間が現れない。背>>続きを読む

優しさのすべて(2021年製作の映画)

4.7

世界は膨張していくのに、自分はそれについていけない。歩道橋の上で立ち止まり、移動する物どもを眺めることしかできない。ついに足を怪我することで、完全に移動不可能となり、停滞感が頂点に達する。新宿南口を松>>続きを読む