未島夏

グランド・ホテルの未島夏のレビュー・感想・評価

グランド・ホテル(1932年製作の映画)
3.8
「グランド・ホテル形式」、所謂群像劇の構図の基盤になった作品として有名なこの映画をようやく初めて鑑賞。

自分なりに気付いた点としては、人物の葛藤や交差よりもまず、作品の舞台設定、シチュエーションから群像劇(この映画に対して群像劇と形容するのは恐れ多いが)という構図に対しての意識が徹底的に行き届いていると感じた点。
これは勿論当たり前の話でもあるが、近年の群像劇の構図を用いた映画、特に青春群像劇では工夫はされているがシチュエーションの幅が広く、人物同士が自然な接点を作り辛い設定のものが多いと感じる。
人物同士のファーストインプレッション、そのシーンをいかに自然に描くかが群像劇での第一段階だと自分は思う。
これは勿論違う構図の作品でも同じ事だが、群像劇では特にその点に神経を使わなければ全ての人物を魅力的に見せるのが難しくなる。

この映画ではまず導入部分をホテルの公衆電話での会話という、ホテルに泊まる人物誰しもが自然に行える行為によってまとめて簡潔に見せている。
そして、人物全員が必ず姿を見せるホテルのフロントという場がある事によって、人物同士の接点もまた自然に作り出しやすい。
一見狭苦しくも感じるホテルという舞台のメリットが計算され尽くしている。

人物への焦点の比重も非常にバランスが良く、各々のキャラクター性も軽快な会話によって登場からすぐに印象付けられる。
人物それぞれの葛藤が行き着く着地点はしっかり区別されているが、物語の本筋に人物全員がしっかりと関与しているのも巧みだ。

登場人物の心情はもちろん、群像劇の醍醐味である人物同士の交差、そしてそれぞれのラスト、どれもが計算され尽くした舞台設定と構図意識によって組み立てられた、何度でも見たくなる不朽の映画。
物書きの端くれとして、これからもこの映画に学ぶべき事はたくさんある。
未島夏

未島夏