未島夏

予告犯の未島夏のレビュー・感想・評価

予告犯(2015年製作の映画)
3.5
漫画原作の作品によく見られる「過剰」な人間社会の影に対する描写がとても強く出ている物語な為、演出や脚本のセリフ、そしてその演じ方一つ一つに慎重さが求められる難しい原作に感じた。
しかし、生田斗真演じる「シンブンシ」の奥田は犯行グループのリーダーである事と温厚な人間である事の狭間が上手く表現されていて、犯行予告動画におけるジェスチャーやわずかな声の上擦りに、リーダーとしての行動力をしっかり感じさせながらも何処か狂人になり切れない人間味が滲み出ている。
この他主要キャストの演技はさすがと言えるが、時折コメディタッチに寄り切れない様なシーンも見えたので、全体でもう少し軽いタッチを増やしても良かったかもしれない。

基本的な脚本、演技にそれ程不自然さは無かったが、ネットでの書き込みの再現やその他細かい人間社会の描写にどうしても極端さの鼻につく部分が多い。
また、「シンブンシ」4人の出会いや打ち解け方には素直に入り込めるが、その後犯行グループである「シンブンシ」を立ち上げる理由となった事件の描写、及び非正規労働者に対する描写にもやはり極端さが目立ち、リアリズムの欠片も感じられない。
「シンブンシ」4人に対する感情移入を高めたいという願望が容易に想像出来てしまう。

個人的にとても良いと思ったのは奥田と吉野2人の逃走劇のシーン。
比較的長尺で2人の様子を追うが、そのシーンの終盤まで音楽が一切流れない。
逃走劇という緊迫したシーンを盛り上げるのではなく、あくまで2人の息遣いや表情に焦点を当ててじっくりと見せているこのシーンは非常に見入る。

ラストは驚き等はそれほど無いが、前半のダーティな展開からここまで温かみのある結末に持って来るのは面白い。
「シンブンシ」4人のキャラクター性、そしてそれがよく体現されている演技の賜物だと感じる。
メタボの涙には特にグッと来た。

演出が色々な方向に振れているのが少し気にかかるが、狂気を醸し出す犯行グループ「シンブンシ」の犯行の様子を追う導入から、そこに隠された優しき動機を探っていく終盤への移行、良い意味で裏切りの映画だ。
未島夏

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