ジェイコブ

あのときキスしておけばのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

あのときキスしておけば(2021年製作のドラマ)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

スーパーの青果部門で働く冴えない青年桃地のぞむ。嫌な上司反町にいびられ、同僚のおばちゃんとも上手く付き合えない彼の唯一の楽しみは、週刊マキシマムで連載中の漫画「SEIKAの空」を読む事。ある日、レジでクレーマーに絡まれていた桃地は、謎の女性唯月巴に豪快に助けられる。巴がそのはずみで落としたSEIKAの空のグッズを届けた桃地は、巴がSEIKAの空の作者蟹カマジョーであることを知る。巴は桃地の作品愛を見込んで、使い走りとして雇う事になり、二人の数奇な関係は始まる。自分の為に懸命に働く桃地を見て、次第に巴は好意を抱くようになり、桃地にキスを迫るも、桃地は意気地がなく、拒否してしまう。桃地は気ままな巴に心を揺さぶられながらも、時間とともに二人の距離は縮まっていった。そんなある時、巴は桃地を誘い沖縄旅行へ行く事に。しかし、その途中の飛行機が墜落し、桃地は病院に運び込まれ、一命を取り留めたものの、巴は命を落としてしまう。病院で呆然とする桃地の前に現れたのは、巴の隣の席に座っていた田中マサオであった。マサオは桃地に、自分は「唯月巴、蟹カマジョーよ」と告げる。桃地はこれから嫌でも思い知ることになる。「あのときキスしておけば……」と……。
人気脚本家大石静脚本の金曜ナイトドラマ。人気俳優の松坂桃李が主演を務め、同局の人気ドラマ「おっさんずラブ」のスタッフが集結したことでも話題となった。本作は美人漫画家と冴えないおじさんが入れ替わるBLラブコメではあるものの、二人が入れ替わりを周りが受け入れていく流れなども丁寧に描かれている。
個人的考察として、本作は白雪姫から着想を得た話ではないかと思う(といっても、王子=巴、白雪姫=桃地なのだが笑)巴とのキスをきっかけに、夢も目標もなく、うだつの上がらない日々を過ごしていた青年桃地が成長していく物語であり、その事からも本作の真のテーマは桃地の成長、白雪姫でいう姫の目覚めだろう。また、もう一つ重要なテーマとして、人生の一瞬一瞬を後悔なく生きる大切さが描かれていることは、タイトル一つ取っても見て取れる。大抵「あのときキスしておけば」というタイトルの「キス」にばかり目がいきがちだが、このタイトルの真髄は「あのとき〜しておけば」にある。そこには巴が身体を失う前に自分の気持ちを伝える勇気の無かった桃地、退屈な日常を気ままに生きるあまり、それが当たり前でない事に気付けないまま短い一生を終えてしまった巴、現実と向き合う事から逃げ続け、一時的に巴と入れ替わった事がきっかけで目の前にある本当に大切しなければならなかった存在に気づくことができたおじ巴こと田中マサオ、巴への未練を残しているのに、編集者であるという建前を言い訳にして自分の本心を伝えられずにいた高見沢など、登場人物達が抱える様々な後悔の気持ちが込められている。
「今そこにある危機……」といい、松坂桃李はイケメンだけど冴えない、そんなギャップが魅力的な男をやらせたら若手の中ではピカイチだと思う。また、松坂桃李の主演作「あの頃」にも通じる部分があり、松浦亜弥と出会った事をきっかけに、仲間や目標を持って生きる事の大切さを学んだ青年劔と、本作の桃地は重なる。(7話の銭湯のシーンが、同作の恋愛研究会と重なったのもあり笑)それを考えたら、桃地のぞむという名前もももちイズムと語呂が合うし、もしかしたら大石静は本作を書く上で「あの頃」の影響をどこかで受けたのかもしれない(勝手な憶測だが笑)
ラストもしんみり切ないだけで終わらず、それぞれが前を向いて生きる姿をコミカルに描いているのも非常に良く、今年は間違いなく松坂桃李の年だと改めて思わされたドラマ。