ジェイコブ

漂着者のジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

漂着者(2021年製作のドラマ)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

新潟の海岸で全裸の男が打ち上げられているのが見つかる。男は何一つ記憶もなく、発見者の女子高生に、「勝者にはなにもやるな」とヘミングウェイの「老人と海」の一節を呟いて再び意識を失った事から、ヘミングウェイと言われ一躍話題となる。その頃新潟県内では、女児連続誘拐殺人事件が起きており、警察は犯人の手がかりが一向に掴めず捜査が難航していた。そんな中、ヘミングウェイの書いた絵が、行方不明の女児の場所を予知したとして、新潟北陸新聞の記者詠美はヘミングウェイの取材を開始する。誘拐殺人事件の犯人を追う刑事柴田は、ヘミングウェイの周りで人が次々に人が死んでいることから、彼に疑いの目を向ける。そんな中、ヘミングウェイに「幸せの鐘の家」の代表ローゼン岸本と名乗る人物が近づいてくる……。
秋元康が原作・脚本・演出を手掛けたテレビ朝日ドラマ。主演はテレビ東京の「共演NG」でタッグを組んだ斎藤工、ヒロインは元乃木坂46の白石麻衣が務めた。
本作の良かった点を挙げるとすれば、日本のドラマには珍しいクリフハンガー形式を全話通して取り入れ、限られた予算と地上波の制約の中でも出せる力を出して作られたと感じる点だろう。逆にマイナス点は、それにしては全体的にまとまりが悪すぎる事だ。先の読めない展開に途中までは期待を持って鑑賞していたが、後半に差し掛かるにつれて伏線を回収しきれずに終わる予感が強まっていった。その悪い予感は的中し、物語を広げすぎてしまったが故に、畳みきれずに終わってしまう打ち切りが決まった海外ドラマのような仕上がりとなってしまった。また、ヘミングウェイを狙う敵についても、よく分からない内に現れては消え、物語を掻き乱しただけの存在となっていた。もっとテーマをヘミングウェイの生い立ちの謎に絞るとかにしないと、ラストの種明かしが全然入ってこない(ラストのカメラを見つめて微笑む人達は、ポン・ジュノの「殺人の追憶」オマージュだろう)
ここからは考察。本作はドラマ第一話の冒頭の言葉がヨハネ黙示録の第一章の引用であることからも分かるように、キリスト教をベースに作られているように思えた。ヘミングウェイ=キリストと見るとすれば、ヘミングウェイの謎を追う新聞記者で恋人となる詠美=マグダラのマリア、ヘミングウェイの発見者で世に彼の存在を広めた三人+一人の女子高生達=ペトロ、大ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、ヘミングウェイに懐疑的な刑事柴田=トマス、ヘミングウェイの正体を知る謎多き男ローゼン岸本=フィリポ、柴田の相棒野間=バルトロマイ、詠美の上司橋=マタイ、ヘミングウェイの妻と名乗った古市琴音=荒野の誘惑でキリストを試した悪魔(サタン)、臨時総理となった藤沼=熱心党のシモン、ヘミングウェイの真実に迫り殺された国原=タダイ、ヘミングウェイの姿を見た後、首を吊って死んだ後宮教授=イスカリオテのユダ。ラストで死んだと思われたヘミングウェイが実は生きていて、キリストの再臨と考えれば、終わりの日を告げる鐘が鳴った……。と推察したものの、そもそも物語が詰めきれていないのでここまで笑。
後半にかけての展開が残念だったものの、他局と似たりよったりの内容で安定に走ったり、リメイクや原作ありきではない「オリジナルドラマ」を作ろうとする試みは評価したい。