Masato

セヴェランスのMasatoのレビュー・感想・評価

セヴェランス(2022年製作のドラマ)
4.4

-"それは、究極のワーク・ライフ・バランス"
「セヴェランス」という手術により、私生活と職場での記憶や人格が完全に分離した状態で生きる会社員が、職場以外で謎の同僚と接触したことから、隠された真実が明かされていくスリラー。

アメリカ人のドラマファンが選んだ上半期の面白いドラマで1位だったとのことなので視聴。

現代?でモダンな職場のインテリアなのに対して、パソコンは恐ろしく古臭く、テレビはブラウン管とあらゆるモノが旧型で時代感覚が混在してる奇妙な世界観。マーベルのロキに近いデザイン。やけに長ったらしい廊下、無駄がなさすぎて人間味を感じない職場など、モダニズム作品を彷彿とさせる日常的風景を少し歪めたような世界観が不穏な雰囲気を煽る。

とにかく設定がありそうでなかった斬新さで秀逸。意図的に人格を作成し、それをコントロールすることで職場と私生活の分離を果たす。大枠で捉えれば、クローンやAIロボットに通ずるジャンルではある。人生のあり方を問うた哲学的な部分から、自分と似て非なる者(モノ)への人権意識や問題へとテーマは飛躍していく物語の奥行き感は見事。特に後者のテーマは「アイロボット」やゲームの「Detroit Become Human」を彷彿とさせる。

1話の不穏なイントロダクションは見事に面白いものの、4-6話あたりはそれぞれのキャラの細かいディテールは描かれることはあっても、あまり話全体が大きく動かずに停滞してしまっていたところはやや退屈してしまったが、7話から右肩上がりに面白くなっていき、最終話はマジで面白すぎた。いままでのドラマのなかでも興奮が凄まじい終わり方だった。やばすぎる。最終話だけでかなり評価上がってる。

シーズン2では、ワーク・ライフ・バランスや労働といった問題から跳躍して「他人格への人権問題と企業ルーモンとの対峙」に移っていきそう。

他のアップル作品でも言及したが、映画やドラマまでもアップルのモノはスマートで洗練された上質さを持っている。エンタメ作品によくある野暮ったさがまるでなく、ネトフリやアマゾンなど他のオリジナル作品とは雰囲気の異なった作品が多い。特に本作はモダンな美術を徹底してるので、見ていてとても"アップルらしさ"というものが際立っているように思える。

現実世界で心に傷を負った人間の弱みに漬け込み、セヴェランスをさも自発的に行ったかのようにマインドコントロールする。故に当人はルーモンに救われたと思ってしまう。これらルーモンが行うセヴェランスの行為について、新興宗教的な心理的操作の仕方が今の日本の話題と重なっている。休憩室での行為など、さながら洗脳行為に近い様相で、オウム真理教や統一教会などを彷彿とさせる。

ベリー役のブリットロワー、顔がタイプなんだけども、それ以上に不思議な魅力を持ってる俳優さんでいい発見をした。パトリシア・アークエットはメンタルヤバいパワハラクソババア上司を演じている。


余談
アップルは本当に視聴者に対しての配慮が行き届いていて素晴らしい。日本語吹き替えもDolby Atmosに対応しているし、字幕や障がい者に向けた音声もある。ドラマ開始の前には光てんかんや自殺描写の注意書きが出てくるし、「これまでのまとめ」がいちど視聴をやめた時にだけ出てくる(そのまま次のエピソードへ行った場合は出てこない)。

こうしたいたれりつくせりのサービスは本当に他のサブスクを凌駕している。ここにアップルの真髄があると感じた。
Masato

Masato