ウシュアイア

オールドファッションカップケーキのウシュアイアのレビュー・感想・評価

3.9
四十路を目前に変わり映えのしない日々を過ごす中間管理職・野末は、写真を撮ったりガールズトークで盛り上がったりする女子高生たちの楽しそうな姿を見て羨ましく思う気持ちを部下である外川に漏らすと、外川に「女の子ごっこをしましょう」とパンケーキのお店に連れ出されたのを皮切りに、外川とそれまでに行ったことのないお店などに行くなど刺激的な生活をおくることになり、仕事も前向きになっていく。野末は外川との距離が縮まり・・・


結論から書くと、内容的には男性同士の恋愛を扱ったBLというか年齢的におっさんずラブ作品であるが、特に野末の心の機微は男性ならば刺さる部分はあり、実は男性こそ見るべき作品かもしれない。

よっぽど仕事が好きということでない限り歳を重ねることで体力気力の低下により、変わり映えしない日常を送り、仕事への意欲なども落ちてくるということは大なり小なり誰しも経験することだ。若いうちは知らないラーメン屋を食べ歩いたりしていたが、歳とともにラーメンを次第受け付けない身体になってきて、いつしか決まった店で満足して新しいお店を開拓しようという意欲も失われ、そういったメンタリティーは仕事にも作用してしまったりするのだ。とはいえ、常に新しい映像作品と向き合おうとしているFilmarksのユーザーさんは比較的刺激的な日常を遅れているとは思うが、でも同じようなジャンルばかり観ている人は気を付けられたい。ここのところ新作アニメが不作ということもあってドラマを観始めたが、ハマるほどではないがBLというジャンルに手を出したことで、新鮮さを感じることはできた。男性にBLを勧めるわけではないが、たまには違うジャンルの作品を観てみるのもいいと思う。

ある程度の年齢や立場になると、何かと○○ハラと叫ばれる昨今、ハラスメント防止に腐心したり、飲み会や会食も他人の快適さを優先させ、自分が楽しむことを後回しにしがちである。主人公の野末はそんな男の生きづらさのようなものを体現しており、男性ならば女子高生を羨ましく思う野末の心情を少なからず共感できるのではないかと思う。

実をいうと恋愛関係にはならなかったものの野末と似たような経験をしたことがある。あまり仕事がうまくいっていなかった時期にスイーツ好きの後輩♂にホテルのラウンジのデザートバイキングなどに連れていかれたことがあり(女性の同僚もいたというシチュエーションの違いはある)、未体験を経験することで刺激を受け、私生活でもジムに通い始めたりし、仕事も軌道修正することができたのだ。この「女の子ごっこ」というのが、精神のアンチエイジングになり、閉塞感の打破に有効であることは痛いほどよく分かる。

今の男性に必要なのは、同僚と居酒屋で愚痴を言うことではないし、上司とゴルフに行くことではなく、おしゃれをして流行のパンケーキを食べに行くことなのかもしれない。グルメバーガーでもいいか。

アラフォーの野末を演じた武田航平は年齢的には近いのでしょうけれど、ちょっと若々しすぎる。

本作はBLでなければもっと男性にバズってもおかしくない。BLでなくなると孤独のグルメになってしまうのかもしれない。
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