ウシュアイア

Ossan's Love(英題)のウシュアイアのレビュー・感想・評価

Ossan's Love(英題)(2021年製作のドラマ)
3.2
日本で社会現象を巻き起こした『おっさんずラブ』の香港のリメイク版。

結論から言うと、これはこれでアリという人もいるかも知れないが、『おっさんずラブ』としてはナシで、別の作品のだと思った方がいいと思う。

原作のリスペクトが感じられるほどストーリー展開と重要シーンのロケーションとセリフは細かな部分まできっちりと踏襲している。はるたんに相当する阿田の俳優の顔芸もなかなかよかった。また、物語の肝となる、黒澤部長に相当する上司KK役の俳優さんは、ザ・香港映画スターという印象で吉田鋼太郎とはタイプは違うが、ダンディズムを備えながら乙女心をもつ中年になっていた。

問題ははるたんの方である。
そもそも『おっさんずラブ』の「おっさん」は誰のことを指しているのかという解釈論の問題がある。公式的にも『おっさんずラブ』は「おっさん同士の恋愛テレビドラマ」とされており、一般的には田中圭も「おっさん」に含まれるのである。今や「おっさん」といったら40代(アラフォー)以降を指すのが一般的なところで、第1作時点で田中圭をおっさんとするのは可哀そうではあるが、原作第一話の合コンシーンで示唆されるように、ここでの「おっさん」とは、周囲の多くが結婚をしている年齢(30代)ということもあり、キャリア的にも新人・若手とは言えず、合コンに行くと浮いてしまうくらい恋愛も第一線から遠のきつつある頃合いの男性なのである。「はるたん」というキャラクターはそんな「おっさん」の年齢にも関わらず、自堕落な私生活を送り、仕事もパッとせず、言動もデリカシーがなかったりと、精神的に未熟だけれども、お人好しで憎めない「おっさん」なのである。

ところが、本作は「はるたん」に相当する主人公の年齢が27歳前後という設定で、牧と麻呂に相当する同僚とともにアイドルグループのメンバーから起用されいる。本家の田中圭は愛嬌はあるものの、あえて強調されているのかところどころで目尻のしわが映し出され、ああやっぱりなんだかんで30代なんだよな、と思わせることは少なくなかったが、香港版は一切そういうところがなく、「はるたん」に相当する阿田を誰も「おっさん」とは思わないだろう。原作は「おっさんずラブ」だから面白いところがあったと思うが、ただのボーイズラブBLなのである。

韓国版『白い巨塔』、『女王の教室』日本のドラマの海外リメイクを観たことがあるが、リメイク作品は日本版と比較することで文化の似ているところや違うところが分かり興味深い。「はるたん」というキャラクターは、未熟なものを愛でたり応援したりするKawaii文化の上に成立するものだが、海外では(特にアメリカはでは絶対に)受けれ入れられないと思っていたが、このドラマが成立したということは、香港でも未熟なものを愛でる文化はあるのだろうか。



以下、ネタバレあり。


日本版の原作は40分7話で脚本も洗練されていてテンポが良かったのに対して、50分15話で細かいエピソードが追加されたこともあり、間延びしてコメディの部分より焦ったいラブストーリーの要素が強くなってしまっている。

武川に相当するキャラ・ダレンが、元々妻子持ちで牧とは不倫関係だったという余計な設定があり、牧とダレンの子どもの話などもあり、牧とダレンの関係性もだいぶ違ってきてしまっている。また、中国化が進む香港に対して、LGBTQにフレンドリーな台湾というのも出てきており、政治的なメッセージも見て取れ、やっぱり重たい。
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