長内那由多

一流シェフのファミリーレストラン シーズン2の長内那由多のレビュー・感想・評価

5.0
E2
この作品の伸び代に驚いている。厨房モノとして人気を博しながら今シーズンは新装開店オープンまでの人間模様に的を絞り、前作であれだけ濃密なドラマをやってまだまだこれだけ描けるのかと。カーミーがコンビニで幼馴染と再会するエピソード終盤は出色。モリー・ゴードンがいい。
前シーズンでも最大の修羅場で『ブラックホーク・ダウン』をネタにしたギャグをかましていたけど、今回は(飲食店にとっては致命的な)黒カビにかけて『プロメテウス』ネタ。リドリー・スコット好きを隠せないクリストファー・ストアラーとジョアンナ・カロが可笑しい。

E3
わずか26分。新メニューのインスピレーションを求めてシドニーがシカゴの街を食べ歩く。S2に入って明らかに予算が倍増したのか、街を捉えた空撮、ロケーションがぐっと増えた。自分だけ頑張っている、と思い始めた時が落とし穴だったりするもの。利発なアヨ・エデビリがいい。

E4
修行のためマーカスはデンマークへ渡る。指南役のシェフはウィル・ポールター。若手ならではの旺盛な演技的欲求がいい。「世界に対してオープンであれ」という言葉は何の分野にも置き換えられる。ちょっとシュールな物語展開にそうだ、ヒロ・ムライも絡んでいたのだったと思い出す。

E5
“PART2”と題されたシーズン2は各キャラクターの大きな発展が魅力。前シーズンからぐっと出番が増えたシュガー役アビー・エリオットら女優陣が特にいい。中でもどんどん自己承認を得て、新たな人生を獲得していくティナ役ライザ・コロン=ザヤスの佇まいと微笑が素晴らしい。

E6
今シーズンはトレードマークとも言えるカオティックな群像シーンがないのかと思いきや、物語の中心に位置してきた空洞を解き明かす回想エピソードで目眩のするような狂騒的アンサンブル。ジェイミー・リー・カーティスは“エブエブ”よりも断然、こちらの痛ましい母親役が名演。
家族の集いは形は違えど多くの人が覚えのある光景だと思うし、これから経験することも十分にあり得る。僕はそう遠くない自分の未来を見ているような気分になってしまい、いったい誰のポジションだろうと頭を抱えてしまったよ…。

E7
再び30分ドラマの尺に戻って本作ならではの語りの美学が光る珠玉のエピソード。相手はもとより、自分にも敬意を払うことで学び、成長するリッチーの姿に、僕は改めてこの作品で最も近い存在が彼なのではと思えた。S2は成長の物語。人生に遅すぎることはない、1秒もムダにするな!
リッチーの部屋に『エイリアン』と『白い嵐』のポスターが貼ってあって、やっぱりリドリー・スコット好きはオマエかよ!

E8
ガス栓1つでシーズン最大のサスペンスと、登場人物全員の人生を集約する真骨頂。学びによって今が楽しくて仕方ないことが伝わってくるリッチーの姿に涙。方や変化を前に逃げ出したエブラを否定も断罪もしない事が、2023年の立脚点では(でもティナが大事なことは言ってくれてる)。

完走
今年最高の1本。大成功した前作のストーリーテリングから大きく離れる果敢さで、しかしフィナーレに向けて吹きこぼれることなく燃焼し、豊潤さを獲得する。ある人物の「人には歴史がある」という言葉はS1でリッチーが発した「場所を知り、愛と経緯を知らなくちゃいけない」に連なる。僕はカーミーの自分の理想に到達できない挫折、怒り、苦しみに共感してしまった。熱中できてない、没頭していない、身を投げ出していない自分が許せないのだ。さぁ、突き進むのか、どうする。
長内那由多

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