なっこ

階段下のゴッホのなっこのレビュー・感想・評価

階段下のゴッホ(2022年製作のドラマ)
2.8
絵は言葉のない手紙

それは、ほんとうだと思う。
芸術全般、あらゆる表現は全て“手紙”の形をとって、読者である鑑賞者に届けられるものだと思ってる。

ドラマを見ている間ゆっくり読んでいる本があって、その中にも芸術が“手紙”に喩えられる部分があって、こういう考えはやはり多くの人が実感しているのだろうなと素直に思った。

私は妙に“手紙”が好きで、それほど書く習慣がある訳ではないのに、作家や芸術家の遺した手紙にはとても惹かれる。書簡体小説も好きだし、先に挙げた本もアーティスト同士の公開書簡の形をとった読みものだった。そして多くの本は、大きくいえば読者への手紙だと思っている。

ゴッホに惹かれるのは、彼の苦しみの多くが手紙文体でそのまま遺されているからだと思う。特に日本では彼の文体が大きく評価された。言葉によって自分の描きたいもの、自分が見る世界の美しさを語る、彼の手紙は彼の遺したもうひとつの芸術。そしてもちろんそれは、限りない愛情と援助を最期まで与え続け彼を支えた弟テオの存在によってこの世界に遺されたものだということを忘れてはならない。彼らはふたりでひとりの芸術家であったかのようだ。

このドラマは何気なくヒロインが一歩芸術へと足を踏み入れた日常を描いているように始まったが、根底には芸術家“ゴッホ”の存在があったように思う。それは“ダビデ”とその兄の兄弟の物語。

あのふたりが珈琲を飲んでいた頃の日常を閉じ込めたのがあの赤い絵だったんだろうと思う。

確かに退屈な部分もあったし、核心を描くまで遠回りしたようにも感じる。それでも最後まで惹きつける何かはあった。
せめてドラマの中でくらいこの殺伐とした日常の中に芸術を取り入れてみようとする企みであったのだろうか。
働くことは大事なこと。生きてるっていう実感もある。けれど、何か心を擦り減らしていっているのも事実。何か心を震わせるような、潤わせてくれるような感動を探してしまう。そんな現代女性の感性が見え隠れしていたように思う。

なんだか青春だな、とりあえず。

それが、最終話まで見た感想。
なっこ

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