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ユーミンストーリーズのなっこのレビュー・感想・評価

ユーミンストーリーズ(2024年製作のドラマ)
3.2
歌があって、それが小説になって、脚本になって、ドラマになる

ユーミンは、世代じゃないけれど永遠に色褪せない歌詞の世界観を持っている稀有な音楽家だと思う。その作家性というか、文学性がこんな形でドラマ化され提示されるとは思いもしなかった。

原作本がある、と他の方のレビューを読んでいて気が付いたのだが、原作本の『Yuming Tribute Stories』は随分前にクリップしていた本だった。

松任谷由実(ユーミン)デビュー50周年を記念して編まれた6人の作家による書き下ろし中短編小説集。文庫オリジナル。

今回はこの中の3編が15分✖️4話ずつ(月〜木)で映像化された。ドラマだけでも十分に面白かったのだけれど、見終えて本も読んでみた。

ユーミンの歌詞は、やはりそれだけで物語なのだと思う。
ひとつの世界、ひとりの主人公を目の前に提示してくれるような完結された世界がある。そのイメージをもとに小説家が短編を書き、それをさらに脚本家がシナリオにする。そうやってメタモルフォーゼしていく物語の妙を感じる。文庫本解説の酒井順子さんのまとめの言葉が秀逸。

「ユーミンの中の文学性と、作家達の中の音楽性が、図らずも浮かび上がることとなった」

それに映像作家たちの味付けが加わったショートフィルムのような3作品は、ユーミンのうたの世界の豊かなふくらみを味わわせてくれる。

うたが主役だけど、セリフの中にも歌詞はほぼ登場しない。その潔さがすごく良い。歌詞の向こう側にある世界をどの作家も見つめて作り上げている。だからもう一度歌詞を読んで改めてユーミンを聴きたくなる。そんな風にぐるぐるエンドレスにユーミンの世界に浸っていたくなる、そういう魔法にかけられてしまうようだ。

3作品どれも良かったけれど、もう一度見たいと思うほど好きなのは3作目。出演者も豪華だし、1時間の枠におさめるために端折ったシーンもありそうだから、もう少し膨らませてドラマで終わらせず一本の映画にして後世に残して欲しいなあ。

『春よ、来い』
そうそう、スノーボールじゃなくて、スノードームね。小説を読んで自分で想像できる小道具のカタチには限界がある。実際のモノを提示してくれるのが映像化の素晴らしいところ。文豪シリーズのスノードーム。欲しい。私なら芥川をお願いしたい。
ラスト近くのもうひとつのスノードームを覗き込んだ時の少女の横顔がとてもみずみずしく美しかった。
ネット検索したらすぐにスノードーム作者のInstagramにたどり着いた。たまに眺めて癒しの時間としたい。
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