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季節のない街のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

季節のない街(2023年製作のドラマ)
5.0
“ナニ”と呼ばれる大災害から12年。
今なお残る仮設住宅に、生きる希望を失った主人公の半助こと田中新助(池松壮亮)は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで最大一万円がもらえるという仕事を謎の男ミッキー(鶴見辰吾)から請け負い、猫とともに軽い気持ちでやってきた。
この街には18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万を超えると「即立退き」とあって皆ギリギリの生活を送っていた。
そして彼らはみな一癖も二癖もある曲者ばかり…。そんな中、街の青年部を名乗るタツヤ(仲野太賀)と近所のリカーショップで働くオカベ(渡辺大知)は、半助を青年部に迎え入れる。
徐々に街に溶け込んでいく半助だったが、やがてその仕事が街に思わぬ展開をもたらすこととなり…。
原作は、山本周五郎の小説「季節のない街」。
誰もがその日の暮らしに追われる、裕福とはいえない“街”を舞台に弱さや狡さを隠さずに逞しく生きる、個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ物語となっており、1970年に黒澤明監督が「どですかでん」のタイトルで映画化したことでも知られる不朽の名作。
本作では、この傑作小説をベースに、舞台となる“街”を12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へ置き換え、現代の物語として再構築。希望を失い、この“街”にやってきた主人公が“街”の住人たちの姿に希望をみつけ、人生を再生していく青春群像エンターテインメントとなっている!
本作は、現在放送中の「不適切にもほどがある!」でも話題の宮藤官九郎が、20代のころからずっと切望していた企画で、テレ東とディズニーの共同製作でついに実現。
宮藤自身も「紛れもなく、いちばんやりたかった作品で、これを世に出したら、自分の第二章が始まるような気がしています。」と手ごたえを語っています。
前半部分は、漁師の父を「ナニ」という大災害で亡くし、仮設住宅にやって来た田中新助の目線から自分を電車の車掌と思い込んでいる六ちゃん(浜田岳)や仮設住宅の住民から頼りにされるたんばさん(ベンガル)や息子と仮設住宅に住み着くホームレスのリッチマン(又吉直樹)ら個性的な濃いキャラクターや田中新助の友人となるタツヤのクズ兄貴のことばかり構い大事にする母など家族に対する鬱屈した想いや叔父と母と同居して苦労しているかつ子(三浦透子)に対するオカベの片想いなどが描かれつつ、貧しい中で助け合い肩よせ合って生きる仮設住宅の住民の擬似家族的な絆をじっくりと時にユーモラスに時にシニカルに描く展開で、今まで宮藤官九郎が描いてきた擬似家族的な群像劇の集大成。
仮設住宅にやって来た島さん(藤井隆)が登場してからの中盤の急展開は、「あまちゃん」以来の作品で東日本大震災の被害に遭われた人たちの葛藤や苦悩を描き続ける宮藤官九郎のワイドショーでも国会でも東日本大震災の総括や反省そして災害復旧支援を復興していないのに止める日本政府や東日本大震災を忘れかけている大衆への辛辣なアンサーやメッセージが込められていて、クドカン作品初出演の池松壮亮やクドカン作品に縁深い仲野太賀や渡辺大知やクドカン作品に縁深い荒川良々や岩松了やMEGUMIや坂井真紀や三浦透子や又吉直樹やベンガルや濱田岳や藤井隆などなど若手やベテラン入り乱れての芸達者なアンサンブルに惹き込まれ、猥雑にたくましくしぶとく生きる人々の骨太な人間喜劇は閉塞感に息がつまる令和にこそ見たい宮藤官九郎の集大成的な傑作ヒューマンコメディドラマ。
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