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大奥のtubameのレビュー・感想・評価

大奥(2003年製作のドラマ)
4.2
来年の新作に合わせて過去作が配信されたので観賞。過去ハマっていたシリーズだが、今観ても普通に面白くて毎話楽しめた。


ライト層を取り組み、一躍人気シリーズとなったフジテレビ版大奥。本作はその最初の作品だが、幕末を舞台にいきなり大奥の終焉を描く。
前半は薩摩から13代将軍・家定に嫁いだ篤子(篤姫)、後半は14代将軍・家茂に降嫁した和宮を主役とし、大奥へ奉公した町方の娘・まるの視点で女性たちの悲喜こもごもが描かれる。


当時時代劇に出演経験がない女優ばかりを揃えたらしいが、菅野美穂・浅野ゆう子・安達祐実・野際陽子など演技派揃いで非常に見応えがある。
シリーズ化の予定は元々なかったのか、他の時代の大奥の有名エピソードを取り込むなどストーリー面は非常に柔軟で、とことんエンタメに全振りした展開は一つの時代劇ドラマの形として大いにアリ。ED曲はPOPSだし、メインテーマも洋風でモダンなアレンジがされていて音楽面でも意欲的で面白かった。


前半は大奥で我を貫く篤子と、しきたりを重んじる大奥総取締・瀧山の対立が軸になっているが、篤子の気の強いおなごぶりを菅野美穂が好演。一般には宮﨑あおいが演じた大河ドラマ「篤姫」が浸透しているのかもしれないが、個人的には本作の方が現存する写真(滅茶苦茶気が強そう)のイメージにピッタリだと思っている。
薩摩の想い人への義理立てから家定へ心を開かないのも、瀧山から嫌がらせを受けても跳ね返す真っ直ぐさも頼もしい(ちょっと心配だけど)。
ストーリーテラーのまる(池脇千鶴)は彼女とガールミーツガール的な要素があり傍で心を配る役どころなので、まる目線で私が篤子様の味方になる!という気持ちで観るのもまた一興(まる自身にも物語があり、幼馴染み・しんちゃんとの淡い恋模様は本作の数少ない癒しだ)。
瀧山は最初は嫌なお局様っぷりにムッとさせられるが、最終的には大奥にすがって生きている一人の女性に過ぎないのだと分かり、憎めなくなる。浅野ゆう子がこれまた熱演。

でも個人的に前半のMVPは何と言っても北村一輝の家定。なんとも言えない色気と存在感!本作の瀧山は家定に執着心がある設定だが、それも何か理解できるような気がする。
一見他人を寄せ付けない雰囲気だけど、その実ひとに理解されないから(顔に酷い火傷がある上、将軍としても暗愚と思われている)心を開くことを諦めてしまった寂しい人で、本来は優しい上様なのだ。
そういう家定が生命力のある篤子に惹かれて少しずつ表情に変化が出てくるのが最高なんだよなーこれが。篤子は好きな人がいるので家定の片想いの構図になってしまうのがまた切ない。夫なのに。勝昭より上様にしときなって!!と何度心の中で叫んだか分からない。
上様が亡くなる回は悲しくて観ながら泣いてしまった。今際の際も優しくて器の大きい上様...。お二人はここで結ばれたと解釈してるけど、それはそれとして御台様と普通に幸せになる並行世界はないんですか...
同志が多かったのか、本作の人気を受けて新たに制作されたSP版では家定公の出番が大幅増なので皆それも観よう(今回は未配信)。


後半は和宮と家茂の実母・実成院の嫁姑争いと、和宮・家茂の悲恋を中心に据えた構成。史実では和宮と天璋院(※未亡人になった篤子。家茂は家定の養子になるため義理の嫁姑関係になる)の確執を本作では本当の嫁姑に置き換えている。
関係性の分かりやすさ重視に加え、篤子の好感度を下げないためかと思われる(実成院が酒豪で派手好きだったのは本当らしいので、実際何らかの衝突はあったかもしれない)。
安達祐実の和宮は童顔なこともあり、まるで雛人形のような可愛らしさ。高貴な生まれ故の世間知らずであり、性格は純粋な娘として描かれているので孤立した宮様が可哀想で仕方ない(これは野際陽子の嫌な姑っぷりが素晴らしいことの証明でもある)。
恋に憧れる姿もいじらしかっただけに、漸く家茂と心が通じたと思ったら早々に永久の別離になるのが辛い...。葛山信吾は家茂にしては年齢が上過ぎる印象だけど、品があって生真面目な将軍という意味ではキャスティングは成功だったと言えよう。短くて哀しくも美しい純愛がキラキラと輝いていた。


幕府という屋台骨自体が崩壊していき、新しい時代の到来に不安を抱えながらも、それぞれが自分を見つめなおし新しい生き方を選び取っていく終盤は胸熱だ。運命的な結び付きだった篤子とまるの別れや、ここにきて初めて瀧山の弱さが描かれるのも印象的。女性たちがいなくなりガランとした大奥が映った時のあの寂寥感といったら...
ただ、薩摩と決別し、自分の力で生きていくことを宣言する篤子の姿は毅然としていてどこまでもカッコいい。
何かに縛られていても、厳しい運命が待っていても、どう生きるかを決めるのは自分なのだと彼女の姿を通して教えられたように思う。江戸時代に生きていなくても、現代の自分も勇気付けられた気がする力強い幕切れだった。
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